刑事訴訟法

 第一編 総則
      第一章 裁判所の管轄
      第二章 裁判所職員の除斥及び忌避
      第三章 訴訟能力
      第四章 弁護及び補佐
      第五章 裁判
      第六章 書類及び送達
      第七章 期間
      第八章 被告人の召喚、勾引及び勾留
      第九章 押収及び捜索
      第十章 検証
      第十一章 証人尋問
      第十二章 鑑定
      第十三章 通訳及び翻訳
      第十四章 証拠保全
      第十五章 訴訟費用
      第十六章 費用の補償

 第二編 第一審
        第一章 捜査
      第二章 公訴
      第三章 公判
       第一節 公判準備及び公判手続
       第二節 証拠
       第三節 公判の裁判


 第三編 上訴
       第一章 通則
        第二章 控訴
        第三章 上告
       第四章 抗告
 第四編 再審
 第五編 非常上告
 第六編 略式手続
 第七編 裁判の執行
 附則

 

 

 

 

 
  第三編 上訴


   第一章 通則

 〔上訴権者〕
第三百五十一条
 検察官又は被告人は、上訴をすることができる。
 第二百六十六条第二号の規定により裁判所の審判に付された事件と他の事件とが併合して審判され、一個の裁判があつた場合には、第二百六十八条第二項の規定により検察官の職務を行う弁護士及び当該他の事件の検察官は、その裁判に対し各々独立して上訴をすることができる。



 〔抗告権者〕
第三百五十二条
 検察官又は被告人以外の者で決定を受けたものは、抗告をすることができる。



 〔被告人のための上訴〕
第三百五十三条
 被告人の法定代理人又は保佐人は、被告人のため上訴をすることができる。



 〔勾留の理由開示請求事件についての上訴〕
第三百五十四条
 勾留に対しては、勾留の理由の開示があつたときは、その開示の請求をした者も、被告人のため上訴をすることができる。その上訴を棄却する決定に対しても、同様である。



 〔原審代理人・弁護人の上訴〕
第三百五十五条
 原審における代理人又は弁護人は、被告人のため上訴をすることができる。



 〔被告人のための上訴の制限〕
第三百五十六条
 前三条の上訴は、被告人の明示した意思に反してこれをすることができない。



 〔裁判の一部に対する上訴〕
第三百五十七条
 上訴は、裁判の一部に対してこれをすることができる。部分を限らないで上訴をしたときは、裁判の全部に対してしたものとみなす。



 〔上訴提起期間の進行〕
第三百五十八条
 上訴の提起期間は、裁判が告知された日から進行する。



 〔上訴の放棄又は取下〕
第三百五十九条
 検察官、被告人又は第三百五十二条に規定する者は、上訴の放棄又は取下をすることができる。



 〔書面による被告人の同意による上訴の放棄・取下〕
第三百六十条
 第三百五十三条又は第三百五十四条に規定する者は、書面による被告人の同意を得て、上訴の放棄又は取下をすることができる。



 〔上訴の放棄の禁止〕
第三百六十条の二
 死刑又は無期の懲役若しくは禁錮に処する判決に対する上訴は、前二条の規定にかかわらず、これを放棄することができない。


 〔上訴放棄の手続〕
第三百六十条の三
 上訴放棄の申立は、書面でこれをしなければならない。



 〔再上訴の禁止〕
第三百六十一条
 上訴の放棄又は取下をした者は、その事件について更に上訴をすることができない。上訴の放棄又は取下に同意をした被告人も、同様である。



 〔上訴権回復の請求〕
第三百六十二条
 第三百五十一条乃至第三百五十五条の規定により上訴をすることができる者は、自己又は代人の責に帰することができない事由によつて上訴の提起期間内に上訴をすることができなかつたときは、原裁判所に上訴権回復の請求をすることができる。



 〔上訴権回復請求の手続〕
第三百六十三条
 上訴権回復の請求は、事由が止んだ日から上訴の提起期間に相当する期間内にこれをしなければならない。
 上訴権回復の請求をする者は、その請求と同時に上訴の申立をしなければならない。



 〔即時抗告〕
第三百六十四条
 上訴権回復の請求についてした決定に対しては、即時抗告をすることができる。



 〔上訴権回復請求と裁判の執行停止〕
第三百六十五条
 上訴権回復の請求があつたときは、原裁判所は、前条の決定をするまで裁判の執行を停止する決定をすることができる。この場合には、被告人に対し勾留状を発することができる。



 〔在監者の上訴〕
第三百六十六条
 監獄にいる被告人が上訴の提起期間内に上訴の申立書を監獄の長又はその代理者に差し出したときは、上訴の提起期間内に上訴をしたものとみなす。
 被告人が自ら申立書を作ることができないときは、監獄の長又はその代理者は、これを代書し、又は所属の吏員にこれをさせなければならない。



 〔在監者の上訴放棄・上訴取下・上訴権回復請求〕
第三百六十七条
 前条の規定は、監獄にいる被告人が上訴の放棄若しくは取下又は上訴権回復の請求をする場合にこれを準用する。



第三百六十八条から第三百七十一条まで 削除





   第二章 控訴




 〔控訴〕
第三百七十二条
 控訴は、地方裁判所、家庭裁判所又は簡易裁判所がした第一審の判決に対してこれをすることができる。



 〔控訴提起期間〕
第三百七十三条
 控訴の提起期間は、十四日とする。




 〔控訴申立書の差出〕
第三百七十四条
 控訴をするには、申立書を第一審裁判所に差し出さなければならない。




 〔原審裁判所による控訴棄却の決定〕
第三百七十五条
 控訴の申立が明らかに控訴権の消滅後にされたものであるときは、第一審裁判所は、決定でこれを棄却しなければならない。この決定に対しては、即時抗告をすることができる。



 〔控訴趣意書の差出〕
第三百七十六条
 控訴申立人は、裁判所の規則で定める期間内に控訴趣意書を控訴裁判所に差し出さなければならない。
 控訴趣意書には、この法律又は裁判所の規則の定めるところにより、必要な疎明資料又は検察官若しくは弁護人の保証書を添附しなければならない。



 〔控訴申立の理由と控訴趣意書―絶対的控訴理由〕
第三百七十七条
 左の事由があることを理由として控訴の申立をした場合には、控訴趣意書に、その事由があることの充分な証明をすることができる旨の検察官又は弁護人の保証書を添附しなければならない。
 一 
法律に従つて判決裁判所を構成しなかつたこと。
 二 
法令により判決に関与することができない裁判官が判決に関与したこと。
 三 
審判の公開に関する規定に違反したこと。



 〔同前―絶対的控訴理由〕
第三百七十八条
 左の事由があることを理由として控訴の申立をした場合には、控訴趣意書に、訴訟記録及び原裁判所において取り調べた証拠に現われている事実であつてその事由があることを信ずるに足りるものを援用しなければならない。
 一 
不法に管轄又は管轄違を認めたこと。
 二 
不法に、公訴を受理し、又はこれを棄却したこと。
 三 
審判の請求を受けた事件について判決をせず、又は審判の請求を受けない事件につ
いて判決をしたこと。
 四 
判決に理由を附せず、又は理由にくいちがいがあること。



 〔同前―訴訟手続の法令違反〕
第三百七十九条
 前二条の場合を除いて、訴訟手続に法令の違反があつてその違反が判決に影響を及ぼすことが明らかであることを理由として控訴の申立をした場合には、控訴趣意書に、訴訟記録及び原裁判所において取り調べた証拠に現われている事実であつて明らかに判決に影響を及ぼすべき法令の違反があることを信ずるに足りるものを援用しなければならない。



 〔同前―法令の適用の誤〕
第三百八十条
 法令の適用に誤があつてその誤が判決に影響を及ぼすことが明らかであることを理由として控訴の申立をした場合には、控訴趣意書に、その誤及びその誤が明らかに判決に影響を及ぼすべきことを示さなければならない。



 〔同前―刑の量定不当〕
第三百八十一条
 刑の量定が不当であることを理由として控訴の申立をした場合には、控訴趣意書に、訴訟記録及び原裁判所において取り調べた証拠に現われている事実であつて刑の量定が不当であることを信ずるに足りるものを援用しなければならない。



 〔同前―事実の誤認〕
第三百八十二条
 事実の誤認があつてその誤認が判決に影響を及ぼすことが明らかであることを理由として控訴の申立をした場合には、控訴趣意書に、訴訟記録及び原裁判所において取り調べた証拠に現われている事実であつて明らかに判決に影響を及ぼすべき誤認があることを信ずるに足りるものを援用しなければならない。



 〔同前―弁論終結後の事情〕
第三百八十二条の二
 やむを得ない事由によつて第一審の弁論終結前に取調を請求することができなかつた証拠によつて証明することのできる事実であつて前二条に規定する控訴申立の理由があることを信ずるに足りるものは、訴訟記録及び原裁判所において取り調べた証拠に現われている事実以外の事実であつても、控訴趣意書にこれを援用することができる。
 第一審の弁論終結後判決前に生じた事実であつて前二条に規定する控訴申立の理由があることを信ずるに足りるものについても、前項と同様である。
 前二項の場合には、控訴趣意書に、その事実を疎明する資料を添附しなければならない。第一項の場合には、やむを得ない事由によつてその証拠の取調を請求することができなかつた旨を疎明する資料をも添附しなければならない。



 〔同前―再審事由その他〕
第三百八十三条
 左の事由があることを理由として控訴の申立をした場合には、控訴趣意書に、その事由があることを疎明する資料を添附しなければならない。
 一 
再審の請求をすることができる場合にあたる事由があること。
 二 
判決があつた後に刑の廃止若しくは変更又は大赦があつたこと。



 〔控訴申立理由の制限〕
第三百八十四条
 控訴の申立は、第三百七十七条乃至第三百八十二条及び前条に規定する事由があることを理由とするときに限り、これをすることができる。



 〔控訴棄却の決定〕
第三百八十五条
 控訴の申立が法令上の方式に違反し、又は控訴権の消滅後にされたものであることが明らかなときは、控訴裁判所は、決定でこれを棄却しなければならない。
 前項の決定に対しては、第四百二十八条第二項の異議の申立をすることができる。この場合には、即時抗告に関する規定をも準用する。



 〔控訴棄却の決定〕
第三百八十六条
 左の場合には、控訴裁判所は、決定で控訴を棄却しなければならない。
 一 
第三百七十六条第一項に定める期間内に控訴趣意書を差し出さないとき。
 二 
控訴趣意書がこの法律若しくは裁判所の規則で定める方式に違反しているとき、又は控訴趣意書にこの法律若しくは裁判所の規則の定めるところに従い必要な疎明資料若しくは保証書を添附しないとき。
 三 
控訴趣意書に記載された控訴の申立の理由が、明らかに第三百七十七条乃至第三百八十二条及び第三百八十三条に規定する事由に該当しないとき。
 前条第二項の規定は、前項の決定についてこれを準用する。



 〔弁護士の選任〕
第三百八十七条
 控訴審では、弁護士以外の者を弁護人に選任することはできない。



 〔被告人のためにする弁論の制限〕
第三百八十八条
 控訴審では、被告人のためにする弁論は、弁護人でなければ、これをすることができない。



 〔弁論の基礎〕
第三百八十九条
 公判期日には、検察官及び弁護人は、控訴趣意書に基いて弁論をしなればならない。



 〔被告人の出頭〕
第三百九十条
 控訴審においては、被告人は、公判期日に出頭することを要しない。ただし、裁判所は、五十万円(刑法、暴力行為等処罰に関する法律及び経済関係罰則の整備に関する法律の罪以外の罪については、当分の間、五万円)以下の罰金又は科料に当たる事件以外の事件について、被告人の出頭がその権利の保護のため重要であると認めるときは、被告人の出頭を命ずることができる。



 〔検察官の陳述のみによる判決〕
第三百九十一条
 弁護人が出頭しないとき、又は弁護人の選任がないときは、この法律により弁護人を要する場合又は決定で弁護人を附した場合を除いては、検察官の陳述を聴いて判決をすることができる。



 〔控訴審の調査事項〕
第三百九十二条
 控訴裁判所は、控訴趣意書に包含された事項は、これを調査しなければならない。
 控訴裁判所は、控訴趣意書に包含されない事項であつても、第三百七十七条乃至第三百八十二条及び第三百八十三条に規定する事由に関しては、職権で調査をすることができる。



 〔事実の取調〕
第三百九十三条
 控訴裁判所は、前条の調査をするについて必要があるときは、検察官、被告人若しくは弁護人の請求により又は職権で事実の取調をすることができる。但し、第三百八十二条の二の疎明があつたものについては、刑の量定の不当又は判決に影響を及ぼすべき事実の誤認を証明するために欠くことのできない場合に限り、これを取り調べなければならない。
 控訴裁判所は、必要があると認めるときは、職権で、第一審判決後の刑の量定に影響を及ぼすべき情状につき取調をすることができる。
 前二項の取調は、合議体の構成員にこれをさせ、又は地方裁判所、家庭裁判所若しくは簡易裁判所の裁判官にこれを嘱託することができる。この場合には、受命裁判官及び受託裁判官は、裁判所又は裁判長と同一の権限を有する。
 第一項又は第二項の規定による取調をしたときは、検察官及び弁護人は、その結果に基いて弁論をすることができる。



 〔第一審の証拠の証拠能力〕
第三百九十四条
 第一審において証拠とすることができた証拠は、控訴審においても、これを証拠とすることができる。



 〔控訴棄却の判決〕
第三百九十五条
 控訴の申立が法令上の方式に違反し、又は控訴権の消滅後にされたものであるときは、判決で控訴を棄却しなければならない。



 〔控訴棄却の判決〕
第三百九十六条
 第三百七十七条乃至第三百八十二条及び第三百八十三条に規定する事由がないときは、判決で控訴を棄却しなければならない。



 〔原判決破棄の判決〕
第三百九十七条
 第三百七十七条乃至第三百八十二条及び第三百八十三条に規定する事由があるときは、判決で原判決を破棄しなければならない。
 第三百九十三条第二項の規定による取調の結果、原判決を破棄しなければ明らかに正義に反すると認めるときは、判決で原判決を破棄することができる。



 〔破棄差戻の判決〕
第三百九十八条
 不法に、管轄違を言い渡し、又は公訴を棄却したことを理由として原判決を破棄するときは、判決で事件を原裁判所に差し戻さなければならない。



 〔破棄移送の判決〕
第三百九十九条
 不法に管轄を認めたことを理由として原判決を破棄するときは、判決で事件を管轄第一審裁判所に移送しなければならない。但し、控訴裁判所は、その事件について第一審の管轄権を有するときは、第一審として審判をしなければならない。



 〔破棄差戻・破棄移送・破棄自判〕
第四百条
 前二条に規定する理由以外の理由によつて原判決を破棄するときは、判決で、事件を原裁判所に差し戻し、又は原裁判所と同等の他の裁判所に移送しなければならない。但し、控訴裁判所は、訴訟記録並びに原裁判所及び控訴裁判所において取り調べた証拠によつて、直ちに判決をすることができるものと認めるときは、被告事件について更に判決をすることができる。



 〔共同被告人のための原判決破棄〕
第四百一条
 被告人の利益のため原判決を破棄する場合において、破棄の理由が控訴をした共同被告人に共通であるときは、その共同被告人のためにも原判決を破棄しなければならない。



 〔不利益変更の禁止〕
第四百二条
 被告人が控訴をし、又は被告人のため控訴をした事件については、原判決の刑より重い刑を言い渡すことはできない。



 〔公訴棄却の決定〕
第四百三条
 原裁判所が不法に公訴棄却の決定をしなかつたときは、決定で公訴を棄却しなければならない。
 第三百八十五条第二項の規定は、前項の決定についてこれを準用する。



 〔準用規定〕
第四百四条
 第二編中公判に関する規定は、この法律に特別の定のある場合を除いては、控訴の審判についてこれを準用する。





   第三章 上告


 〔上告理由〕
第四百五条
 高等裁判所がした第一審又は第二審の判決に対しては、左の事由があることを理由として上告の申立をすることができる。
 一 
憲法の違反があること又は憲法の解釈に誤があること。
 二 
最高裁判所の判例と相反する判断をしたこと。
 三 
最高裁判所の判例がない場合に、大審院若しくは上告裁判所たる高等裁判所の判例又はこの法律施行後の控訴裁判所たる高等裁判所の判例と相反する判断をしたこと。



 〔上告審の特別事件受理〕
第四百六条
 最高裁判所は、前条の規定により上告をすることができる場合以外の場合であつても、法令の解釈に関する重要な事項を含むものと認められる事件については、その判決確定前に限り、裁判所の規則の定めるところにより、自ら上告審としてその事件を受理することができる。



 〔上告申立理由の明示〕
第四百七条
 上告趣意書には、裁判所の規則の定めるところにより、上告の申立の理由を明示しなければならない。



 〔弁論を経ない上告棄却の判決〕
第四百八条
 上告裁判所は、上告趣意書その他の書類によつて、上告の申立の理由がないことが明らかであると認めるときは、弁論を経ないで、判決で上告を棄却することができる。



 〔被告人不召喚〕
第四百九条
 上告審においては、公判期日に被告人を召喚することを要しない。



 〔上告理由がある場合の原判決破棄の判決〕
第四百十条
 上告裁判所は、第四百五条各号に規定する事由があるときは、判決で原判決を破棄しなければならない。但し、判決に影響を及ぼさないことが明らかな場合は、この限りでない。
 第四百五条第二号又は第三号に規定する事由のみがある場合において、上告裁判所がその判例を変更して原判決を維持するのを相当とするときは、前項の規定は、これを適用しない。



 〔上告理由のない場合の原判決破棄の判決〕
第四百十一条
 上告裁判所は、第四百五条各号に規定する事由がない場合であつても、左の事由があつて原判決を破棄しなければ著しく正義に反すると認めるときは、判決で原判決を破棄することができる。
 一 
判決に影響を及ぼすべき法令の違反があること。
 二 
刑の量定が甚しく不当であること。
 三 
判決に影響を及ぼすべき重大な事実の誤認があること。
 四 
再審の請求をすることができる場合にあたる事由があること。
 五 
判決があつた後に刑の廃止若しくは変更又は大赦があつたこと。



 〔破棄移送〕
第四百十二条
 不法に管轄を認めたことを理由として原判決を破棄するときは、判決で事件を管轄控訴裁判所又は管轄第一審裁判所に移送しなければならない。



 〔破棄差戻・破棄移送・破棄自判〕
第四百十三条
 前条に規定する理由以外の理由によつて原判決を破棄するときは、判決で、事件を原裁判所若しくは第一審裁判所に差し戻し、又はこれらと同等の他の裁判所に移送しなければならない。但し、上告裁判所は、訴訟記録並びに原裁判所及び第一審裁判所において取り調べた証拠によつて、直ちに判決をすることができるものと認めるときは、被告事件について更に判決をすることができる。



 〔準用規定〕
第四百十四条
 前章の規定は、この法律に特別の定のある場合を除いては、上告の審判についてこれを準用する。



 〔訂正の判決〕
第四百十五条
 上告裁判所は、その判決の内容に誤のあることを発見したときは、検察官、被告人又は弁護人の申立により、判決でこれを訂正することができる。
 前項の申立は、判決の宣告があつた日から十日以内にこれをしなければならない。上告裁判所は、適当と認めるときは、第一項に規定する者の申立により、前項の期間を延長することができる。



 〔訂正判決の弁論〕
第四百十六条
 訂正の判決は、弁論を経ないでもこれをすることができる。



 〔判決訂正申立の棄却の決定〕
第四百十七条
 上告裁判所は、訂正の判決をしないときは、速やかに決定で申立を棄却しなければならない。
 訂正の判決に対しては、第四百十五条第一項の申立をすることはできない。



 〔上告判決の確定〕
第四百十八条
 上告裁判所の判決は、宣告があつた日から第四百十五条の期間を経過したとき、又はその期間内に同条第一項の申立があつた場合には訂正の判決若しくは申立を棄却する決定があつたときに、確定する。





   第四章 抗告


 〔抗告〕
第四百十九条
 抗告は、特に即時抗告をすることができる旨の規定がある場合の外、裁判所のした決定に対してこれをすることができる。但し、この法律に特別の定のある場合は、この限りでない。



 〔判決前の決定に対する抗告〕
第四百二十条
 裁判所の管轄又は訴訟手続に関し判決前にした決定に対しては、この法律に特に即時抗告をすることができる旨の規定がある場合を除いては、抗告をすることはできない。
 前項の規定は、勾留、保釈、押収又は押収物の還付に関する決定及び鑑定のためにする留置に関する決定については、これを適用しない。
 勾留に対しては、前項の規定にかかわらず、犯罪の嫌疑がないことを理由として抗告をすることはできない。



 〔抗告の時期〕
第四百二十一条
 抗告は、即時抗告を除いては、何時でもこれをすることができる。但し、原決定を取り消しても実益がないようになつたときは、この限りでない。



 〔即時抗告の提起期間〕
第四百二十二条
 即時抗告の提起期間は、三日とする。



 〔抗告申告書の差出〕
第四百二十三条
 抗告をするには、申立書を原裁判所に差し出さなければならない。
 原裁判所は、抗告を理由があるものと認めるときは、決定を更正しなければならない
。抗告の全部又は一部を理由がないと認めるときは、申立書を受け取つた日から三日以内に意見書を添えて、これを抗告裁判所に送付しなければならない。



 〔抗告と裁判の執行〕
第四百二十四条
 抗告は、即時抗告を除いては、裁判の執行を停止する効力を有しない。但し、原裁判所は、決定で、抗告の裁判があるまで執行を停止することができる。
 抗告裁判所は、決定で裁判の執行を停止することができる。



 〔即時抗告と裁判の執行〕
第四百二十五条
 即時抗告の提起期間内及びその申立があつたときは、裁判の執行は、停止される。



 〔抗告に対する決定〕
第四百二十六条
 抗告の手続がその規定に違反したとき、又は抗告が理由のないときは、決定で抗告を棄却しなければならない。
 抗告が理由のあるときは、決定で原決定を取り消し、必要がある場合には、更に裁判をしなければならない。



 〔再抗告の禁止〕
第四百二十七条
 抗告裁判所の決定に対しては、抗告をすることはできない。



 〔高等裁判所の決定に対する異議の申立〕
第四百二十八条
 高等裁判所の決定に対しては、抗告をすることはできない。
 即時抗告をすることができる旨の規定がある決定並びに第四百十九条及び第四百二十条の規定により抗告をすることができる決定で高等裁判所がしたものに対しては、その高等裁判所に異議の申立をすることができる。
 前項の異議の申立に関しては、抗告に関する規定を準用する。即時抗告をすることができる旨の規定がある決定に対する異議の申立に関しては、即時抗告に関する規定をも準用する。



 〔裁判官の裁判に対する取消・変更の請求〕
第四百二十九条
 裁判官が左の裁判をした場合において、不服がある者は、簡易裁判所の裁判官がした裁判に対しては管轄地方裁判所に、その他の裁判官がした裁判に対してはその裁判官所属の裁判所にその裁判の取消又は変更を請求することができる。
 一 
忌避の申立を却下する裁判
 二 
勾留、保釈、押収又は押収物の還付に関する裁判
 三 
鑑定のため留置を命ずる裁判
 四 
証人、鑑定人、通訳人又は翻訳人に対して過料又は費用の賠償を命ずる裁判
 五 
身体の検査を受ける者に対して過料又は費用の賠償を命ずる裁判
 第四百二十条第三項の規定は、前項の請求についてこれを準用する。
 第一項の請求を受けた地方裁判所又は家庭裁判所は、合議体で決定をしなければならない。
 第一項第四号又は第五号の裁判の取消又は変更の請求は、その裁判のあつた日から三日以内にこれをしなければならない。
 前項の請求期間内及びその請求があつたときは、裁判の執行は、停止される。



 〔検察官等の処分に対する取消・変更の請求〕
第四百三十条
 検察官又は検察事務官のした第三十九条第三項の処分又は押収若しくは押収物の還付に関する処分に不服がある者は、その検察官又は検察事務官が所属する検察庁の対応する裁判所にその処分の取消又は変更を請求することができる。
 司法警察職員のした前項の処分に不服がある者は、司法警察職員の職務執行地を管轄する地方裁判所又は簡易裁判所にその処分の取消又は変更を請求することができる。
 前二項の請求については、行政事件訴訟に関する法令の規定は、これを適用しない。



 〔請求書の差出〕
第四百三十一条
 前二条の請求をするには、請求書を管轄裁判所に差し出さなければならない。



 〔準用規定〕
第四百三十二条
 第四百二十四条、第四百二十六条及び第四百二十七条の規定は、第四百二十九条及び第四百三十条の請求があつた場合にこれを準用する。



 〔最高裁判所に対する特別抗告〕
第四百三十三条
 この法律により不服を申し立てることができない決定又は命令に対しては、第四百五条に規定する事由があることを理由とする場合に限り、最高裁判所に特に抗告をすることができる。
 前項の抗告の提起期間は、五日とする。



 〔準用規定〕
第四百三十四条
 第四百二十三条、第四百二十四条及び第四百二十六条の規定は、この法律に特別の定のある場合を除いては、前条第一項の抗告についてこれを準用する。





  第四編 再審


 〔有罪の確定判決に対する再審の事由〕
第四百三十五条
 再審の請求は、左の場合において、有罪の言渡をした確定判決に対して、その言渡を受けた者の利益のために、これをすることができる。
 一 
原判決の証拠となつた証拠書類又は証拠物が確定判決により偽造又は変造であつたことが証明されたとき。
 二 
原判決の証拠となつた証言、鑑定、通訳又は翻訳が確定判決により虚偽であつたことが証明されたとき。
 三 
有罪の言渡を受けた者を誣告した罪が確定判決により証明されたとき。但し、誣告により有罪の言渡を受けたときに限る。
 四 
原判決の証拠となつた裁判が確定裁判により変更されたとき。
 五 
特許権、実用新案権、意匠権又は商標権を害した罪により有罪の言渡をした事件について、その権利の無効の審決が確定したとき、又は無効の判決があつたとき。
 六 
有罪の言渡を受けた者に対して無罪若しくは免訴を言い渡し、刑の言渡を受けた者に対して刑の免除を言い渡し、又は原判決において認めた罪より軽い罪を認めるべき明らかな証拠をあらたに発見したとき。
 七 
原判決に関与した裁判官、原判決の証拠となつた証拠書類の作成に関与した裁判官又は原判決の証拠となつた書面を作成し若しくは供述をした検察官、検察事務官若しくは司法警察職員が被告事件について職務に関する罪を犯したことが確定判決により証明されたとき。但し、原判決をする前に裁判官、検察官、検察事務官又は司法警察職員に対して公訴の提起があつた場合には、原判決をした裁判所がその事実を知らなかつたときに限る。



 〔上訴棄却の確定判決に対する再審の事由〕
第四百三十六条
 再審の請求は、左の場合において、控訴又は上告を棄却した確定判決に対して、その言渡を受けた者の利益のために、これをすることができる。
 一 
前条第一号又は第二号に規定する事由があるとき。
 二 
原判決又はその証拠となつた証拠書類の作成に関与した裁判官について前条第七号に規定する事由があるとき。
 第一審の確定判決に対して再審の請求をした事件について再審の判決があつた後は、控訴棄却の判決に対しては、再審の請求をすることはできない。
 第一審又は第二審の確定判決に対して再審の請求をした事件について再審の判決があつた後は、上告棄却の判決に対しては、再審の請求をすることはできない。



 〔確定判決に代える事実の証明〕
第四百三十七条
 前二条の規定に従い、確定判決により犯罪が証明されたことを再審の請求の理由とすべき場合において、その確定判決を得ることができないときは、その事実を証明して再審の請求をすることができる。但し、証拠がないという理由によつて確定判決を得ることができないときは、この限りでない。



 〔再審請求事件の管轄〕
第四百三十八条
 再審の請求は、原判決をした裁判所がこれを管轄する。



 〔再審請求権者〕
第四百三十九条
 再審の請求は、左の者がこれをすることができる。
 一 
検察官
 二 
有罪の言渡を受けた者
 三 
有罪の言渡を受けた者の法定代理人及び保佐人
 四 
有罪の言渡を受けた者が死亡し、又は心神喪失の状態に在る場合には、その配偶者、直系の親族及び兄弟姉妹第四百三十五条第七号又は第四百三十六条第一項第二号に規定する事由による再審の請求は、有罪の言渡を受けた者がその罪を犯させた場合には、検察官でなければこれをすることができない。



 〔再審請求と弁護人の選任〕
第四百四十条
 検察官以外の者は、再審の請求をする場合には、弁護人を選任することができる。
 前項の規定による弁護人の選任は、再審の判決があるまでその効力を有する。



 〔再審請求の時期〕
第四百四十一条
 再審の請求は、刑の執行が終り、又はその執行を受けることがないようになつたときでも、これをすることができる。



 〔再審請求と刑の執行〕
第四百四十二条
 再審の請求は、刑の執行を停止する効力を有しない。但し、管轄裁判所に対応する検察庁の検察官は、再審の請求についての裁判があるまで刑の執行を停止することができる。



 〔再審請求の取下〕
第四百四十三条
 再審の請求は、これを取り下げることができる。
 再審の請求を取り下げた者は、同一の理由によつては、更に再審の請求をすることができない。



 〔在監者の特則〕
第四百四十四条
 第三百六十六条の規定は、再審の請求及びその取下についてこれを準用する。



 〔事実の取調〕
第四百四十五条
 再審の請求を受けた裁判所は、必要があるときは、合議体の構成員に再審の請求の理由について、事実の取調をさせ、又は地方裁判所、家庭裁判所若しくは簡易裁判所の裁判官にこれを嘱託することができる。この場合には、受命裁判官及び受託裁判官は、裁判所又は裁判長と同一の権限を有する。



 〔形式違反による再審請求の棄却の決定〕
第四百四十六条
 再審の請求が法令上の方式に違反し、又は請求権の消滅後にされたものであるときは、決定でこれを棄却しなければならない。



 〔再審請求の棄却の決定〕
第四百四十七条
 再審の請求が理由のないときは、決定でこれを棄却しなければならない。
 前項の決定があつたときは、何人も、同一の理由によつては、更に再審の請求をすることはできない。



 〔再審開始決定〕
第四百四十八条
 再審の請求が理由のあるときは、再審開始の決定をしなければならない。
 再審開始の決定をしたときは、決定で刑の執行を停止することができる。



 〔再審の判決による再審請求の棄却の決定〕
第四百四十九条
 控訴を棄却した確定判決とその判決によつて確定した第一審の判決とに対して再審の請求があつた場合において、第一審裁判所が再審の判決をしたときは、控訴裁判所は、決定で再審の請求を棄却しなければならない。
 第一審又は第二審の判決に対する上告を棄却した判決とその判決によつて確定した第一審又は第二審の判決とに対して再審の請求があつた場合において、第一審裁判所又は控訴裁判所が再審の判決をしたときは、上告裁判所は、決定で再審の請求を棄却しなければならない。



 〔即時抗告〕
第四百五十条
 第四百四十六条、第四百四十七条第一項、第四百四十八条第一項又は前条第一項の決定に対しては、即時抗告をすることができる。



 〔再審の審判〕
第四百五十一条
 裁判所は、再審開始の決定が確定した事件については、第四百四十九条の場合を除いては、その審級に従い、更に審判をしなければならない。
 左の場合には、第三百十四条第一項本文及び第三百三十九条第一項第四号の規定は、前項の審判にこれを適用しない。
 一 
死亡者又は回復の見込がない心神喪失者のために再審の請求がされたとき。
 二 
有罪の言渡を受けた者が、再審の判決がある前に、死亡し、又は心神喪失の状態に陥りその回復の見込がないとき。
 前項の場合には、被告人の出頭がなくても、審判をすることができる。但し、弁護人が出頭しなければ開廷することはできない。
 第二項の場合において、再審の請求をした者が弁護人を選任しないときは、裁判長は、職権で弁護人を附しなければならない。



 〔不利益変更の禁止〕
第四百五十二条
 再審においては、原判決の刑より重い刑を言い渡すことはできない。



 〔再審による無罪判決の公示〕
第四百五十三条
 再審において無罪の言渡をしたときは、官報及び新聞紙に掲載して、その判決を公示しなければならない。





  第五編 非常上告


 〔非常上告〕
第四百五十四条
 検事総長は、判決が確定した後その事件の審判が法令に違反したことを発見したときは、最高裁判所に非常上告をすることができる。



 〔非常上告申立書の差出〕
第四百五十五条
 非常上告をするには、その理由を記載した申立書を最高裁判所に差し出さなければならない。



 〔検察官の陳述〕
第四百五十六条
 公判期日には、検察官は、申立書に基いて陳述をしなければならない。



 〔非常上告棄却の判決〕
第四百五十七条
 非常上告が理由のないときは、判決でこれを棄却しなければならない。



 〔破棄の判決〕
第四百五十八条
 非常上告が理由のあるときは、左の区別に従い、判決をしなければならない。
 一 
原判決が法令に違反したときは、その違反した部分を破棄する。但し、原判決が被告人のため不利益であるときは、これを破棄して、被告事件について更に判決をする。
 二 
訴訟手続が法令に違反したときは、その違反した手続を破棄する。



 〔非常上告判決の効力〕
第四百五十九条
 非常上告の判決は、前条第一号但書の規定によりされたものを除いては、その効力を被告人に及ぼさない。



 〔非常上告事件の調査事項〕
第四百六十条
 裁判所は、申立書に包含された事項に限り、調査をしなければならない。
 裁判所は、裁判所の管轄、公訴の受理及び訴訟手続に関しては、事実の取調をすることができる。この場合には、第三百九十三条第三項の規定を準用する。





  第六編 略式手続


 〔略式命令〕
第四百六十一条
 簡易裁判所は、検察官の請求により、その管轄に属する事件について、公判前、略式命令で、五十万円以下の罰金又は科料を科することができる。この場合には、刑の執行猶予をし、没収を科し、その他付随の処分をすることができる。



 〔略式命令の請求に際し検察官のなすべき手続〕
第四百六十一条の二
 検察官は、略式命令の請求に際し、被疑者に対し、あらかじめ、略式手続を理解させるために必要な事項を説明し、通常の規定に従い審判を受けることができる旨を告げた上、略式手続によることについて異議がないかどうかを確めなければならない。
 被疑者は、略式手続によることについて異議がないときは、書面でその旨を明らかにしなければならない。



 〔略式命令請求手続〕
第四百六十二条
 略式命令の請求は、公訴の提起と同時に、書面でこれをしなければならない。
 前項の書面には、前条第二項の書面を添附しなければならない。



 〔通常の審判への移行〕
第四百六十三条
 前条の請求があつた場合において、その事件が略式命令をすることができないものであり、又はこれをすることが相当でないものであると思料するときは、通常の規定に従い、審判をしなければならない。
 検察官が、第四百六十一条の二に定める手続をせず、又は前条第二項に違反して略式命令を請求したときも、前項と同様である。
 裁判所は、前二項の規定により通常の規定に従い審判をするときは、直ちに検察官にその旨を通知しなければならない。
 第一項及び第二項の場合には、第二百七十一条の規定の適用があるものとする。但し、同条第二項に定める期間は、前項の通知があつた日から二箇月とする。



 〔公訴提起の失効〕
第四百六十三条の二
 前条の場合を除いて、略式命令の請求があつた日から四箇月以内に略式命令が被告人に告知されないときは、公訴の提起は、さかのぼつてその効力を失う。
 前項の場合には、裁判所は、決定で、公訴を棄却しなければならない。略式命令が既に検察官に告知されているときは、略式命令を取り消した上、その決定をしなければならない。
 前項の決定に対しては、即時抗告をすることができる。



 〔略式命令の記載事項〕
第四百六十四条
 略式命令には、罪となるべき事実、適用した法令、科すべき刑及び附随の処分並びに略式命令の告知があつた日から十四日以内に正式裁判の請求をすることができる旨を示さなければならない。



 〔正式裁判の請求〕
第四百六十五条
 略式命令を受けた者又は検察官は、その告知を受けた日から十四日以内に正式裁判の請求をすることができる。
 正式裁判の請求は、略式命令をした裁判所に、書面でこれをしなければならない。正式裁判の請求があつたときは、裁判所は、速やかにその旨を検察官又は略式命令を受けた者に通知しなければならない。



 〔正式裁判請求の取下〕
第四百六十六条
 正式裁判の請求は、第一審の判決があるまでこれを取り下げることができる。



 〔準用規定〕
第四百六十七条
 第三百五十三条、第三百五十五条乃至第三百五十七条、第三百五十九条、第三百六十条及び第三百六十一条乃至第三百六十五条の規定は、正式裁判の請求又はその取下についてこれを準用する。



 〔正式裁判の請求に対する決定〕
第四百六十八条
 正式裁判の請求が法令上の方式に違反し、又は請求権の消滅後にされたものであるときは、決定でこれを棄却しなければならない。この決定に対しては、即時抗告をすることができる。
 正式裁判の請求を適法とするときは、通常の規定に従い、審判をしなければならない。
 前項の場合においては、略式命令に拘束されない。



 〔略式命令の失効〕
第四百六十九条
 正式裁判の請求により判決をしたときは、略式命令は、その効力を失う。



 〔略式命令の効力〕
第四百七十条
 略式命令は、正式裁判の請求期間の経過又はその請求の取下により、確定判決と同一の効力を生ずる。正式裁判の請求を棄却する裁判が確定したときも、同様である。





  第七編 裁判の執行


 〔裁判執行の時期〕
第四百七十一条
 裁判は、この法律に特別の定のある場合を除いては、確定した後これを執行する。



 〔裁判の執行指揮〕
第四百七十二条
 裁判の執行は、その裁判をした裁判所に対応する検察庁の検察官がこれを指揮する。但し、第七十条第一項但書の場合、第百八条第一項但書の場合その他その性質上裁判所又は裁判官が指揮すべき場合は、この限りでない。
 上訴の裁判又は上訴の取下により下級の裁判所の裁判を執行する場合には、上訴裁判所に対応する検察庁の検察官がこれを指揮する。但し、訴訟記録が下級の裁判所又はその裁判所に対応する検察庁に在るときは、その裁判所に対応する検察庁の検察官が、これを指揮する。



 〔執行指揮の方式〕
第四百七十三条
 裁判の執行の指揮は、書面でこれをし、これに裁判書又は裁判を記載した調書の謄本又は抄本を添えなければならない。但し、刑の執行を指揮する場合を除いては、裁判書の原本、謄本若しくは抄本又は裁判を記載した調書の謄本若しくは抄本に認印して、これをすることができる。



 〔主刑の執行の順序〕
第四百七十四条
 二以上の主刑の執行は、罰金及び科料を除いては、その重いものを先にする。但し、検察官は、重い刑の執行を停止して、他の刑の執行をさせることができる。



 〔死刑執行の命令〕
第四百七十五条
 死刑の執行は、法務大臣の命令による。
 前項の命令は、判決確定の日から六箇月以内にこれをしなければならない。但し、上訴権回復若しくは再審の請求、非常上告又は恩赦の出願若しくは申出がされその手続が終了するまでの期間及び共同被告人であつた者に対する判決が確定するまでの期間は、これをその期間に算入しない。



 〔死刑の執行〕
第四百七十六条
 法務大臣が死刑の執行を命じたときは、五日以内にその執行をしなければならない。



 〔死刑執行の立会〕
第四百七十七条
 死刑は、検察官、検察事務官及び監獄の長又はその代理者の立会の上、これを執行しなければならない。
 検察官又は監獄の長の許可を受けた者でなければ、刑場に入ることはできない。



 〔死刑執行始末書〕
第四百七十八条
 死刑の執行に立ち会つた検察事務官は、執行始末書を作り、検察官及び監獄の長又はその代理者とともに、これに署名押印しなければならない。



 〔死刑執行の停止〕
第四百七十九条
 死刑の言渡を受けた者が心神喪失の状態に在るときは、法務大臣の命令によつて執行を停止する。
 死刑の言渡を受けた女子が懐胎しているときは、法務大臣の命令によつて執行を停止する。
 前二項の規定により死刑の執行を停止した場合には、心神喪失の状態が回復した後又は出産の後に法務大臣の命令がなければ、執行することはできない。
 第四百七十五条第二項の規定は、前項の命令についてこれを準用する。この場合において、判決確定の日とあるのは、心神喪失の状態が回復した日又は出産の日と読み替えるものとする。



 〔自由刑の執行の停止〕
第四百八十条
 懲役、禁錮又は拘留の言渡を受けた者が心神喪失の状態に在るときは、刑
の言渡をした裁判所に対応する検察庁の検察官又は刑の言渡を受けた者の現在地を管轄する地方検察庁の検察官の指揮によつて、その状態が回復するまで執行を停止する。



 〔自由刑執行の停止の場合の処置〕
第四百八十一条
 前条の規定により刑の執行を停止した場合には、検察官は、刑の言渡を受けた者を監護義務者又は地方公共団体の長に引き渡し、病院その他の適当な場所に入れさせなければならない。
 刑の執行を停止された者は、前項の処分があるまでこれを監獄に留置し、その期間を刑期に算入する。



 〔自由刑の執行を停止することができる場合〕
第四百八十二条
 懲役、禁錮又は拘留の言渡を受けた者について左の事由があるときは、刑の言渡をした裁判所に対応する検察庁の検察官又は刑の言渡を受けた者の現在地を管轄する地方検察庁の検察官の指揮によつて執行を停止することができる。
 一 
刑の執行によつて、著しく健康を害するとき、又は生命を保つことのできない虞があるとき。
 二 
年齢七十年以上であるとき。
 三 
受胎後百五十日以上であるとき。
 四 
出産後六十日を経過しないとき。
 五 
刑の執行によつて回復することのできない不利益を生ずる虞があるとき。
 六 
祖父母又は父母が年齢七十年以上又は重病若しくは不具で、他にこれを保護する親族がないとき。
 七 
子又は孫が幼年で、他にこれを保護する親族がないとき。
 八 
その他重大な事由があるとき。



 〔訴訟費用負担の裁判の執行〕
第四百八十三条
 第五百条に規定する申立の期間内及びその申立があつたときは、訴訟費用の負担を命ずる裁判の執行は、その申立についての裁判が確定するまで停止される。



〔死刑・自由刑執行のための呼出〕
第四百八十四条
 死刑、懲役、禁錮又は拘留の言渡を受けた者が拘禁されていないときは、検察官は、執行のためこれを呼び出さなければならない。呼出に応じないときは、収監状を発しなければならない。



 〔逃亡者等に対する処置〕
第四百八十五条
 死刑、懲役、禁錮又は拘留の言渡を受けた者が逃亡したとき、又は逃亡する虞があるときは、検察官は、直ちに収監状を発し、又は司法警察員にこれを発せしめることができる。



 〔現在地不明者に対する処置〕
第四百八十六条
 死刑、懲役、禁錮又は拘留の言渡を受けた者の現在地が判らないときは、検察官は、検事長にその収監を請求することができる。
 請求を受けた検事長は、その管内の検察官に収監状を発せしめなければならない。



 〔収監状〕
第四百八十七条
 収監状には、刑の言渡を受けた者の氏名、住居、年齢、刑名、刑期その他収監に必要な事項を記載し、検察官又は司法警察員が、これに記名押印しなければならない。



 〔収監状の効力〕
第四百八十八条
 収監状は、勾引状と同一の効力を有する。



 〔準用規定〕
第四百八十九条
 収監状の執行については、勾引状の執行に関する規定を準用する。



 〔財産刑等の執行〕
第四百九十条
 罰金、科料、没収、追徴、過料、没取、訴訟費用、費用賠償又は仮納付の裁判は、検察官の命令によつてこれを執行する。この命令は、執行力のある債務名義と同一の効力を有する。
 前項の裁判の執行は、民事執行法(昭和五十四年法律第四号)その他強制執行の手続に関する法令の規定に従つてする。ただし、執行前に裁判の送達をすることを要しない 。



 〔相続財産に対する執行〕
第四百九十一条
 没収又は租税その他の公課若しくは専売に関する法令の規定により言い渡した罰金若しくは追徴は、刑の言渡を受けた者が判決の確定した後死亡した場合には、相続財産についてこれを執行することができる。



 〔合併後の法人に対する執行〕
第四百九十二条
 法人に対して罰金、科料、没収又は追徴を言い渡した場合に、その法人が判決の確定した後合併によつて消滅したときは、合併の後存続する法人又は合併によつて設立された法人に対して執行することができる。



 〔第二審の仮納付の裁判の執行〕
第四百九十三条
 第一審と第二審とにおいて、仮納付の裁判があつた場合に、第一審の仮納付の裁判について既に執行があつたときは、その執行は、これを第二審の仮納付の裁判で納付を命ぜられた金額の限度において、第二審の仮納付の裁判についての執行とみなす。
 前項の場合において、第一審の仮納付の裁判の執行によつて得た金額が第二審の仮納付の裁判で納付を命ぜられた金額を超えるときは、その超過額は、これを還付しなければならない。



 〔仮納付の裁判の執行の効果〕
第四百九十四条
 仮納付の裁判の執行があつた後に、罰金、科料又は追徴の裁判が確定したときは、その金額の限度において刑の執行があつたものとみなす。
 前項の場合において、仮納付の裁判の執行によつて得た金額が罰金、科料又は追徴の金額を超えるときは、その超過額は、これを還付しなければならない。



 〔未決勾留日数の通算〕
第四百九十五条
 上訴の提起期間中の未決勾留の日数は、上訴申立後の未決勾留の日数を除き、全部これを本刑に通算する。上訴申立後の未決勾留の日数は、左の場合には、全部これを本刑に通算する。
 一 
検察官が上訴を申し立てたとき。
 二 
検察官以外の者が上訴を申し立てた場合においてその上訴審において原判決が破棄されたとき。
 前二項の規定による通算については、未決勾留の一日を刑期の一日又は金額の四千円に折算する。
 上訴裁判所が原判決を破棄した後の未決勾留は、上訴中の未決勾留日数に準じて、これを通算する。



 〔没収物の処分〕
第四百九十六条
 没収物は、検察官がこれを処分しなければならない。



 〔没収物の交付〕
第四百九十七条
 没収を執行した後三箇月以内に、権利を有する者が没収物の交付を請求したときは、検察官は、破壊し、又は廃棄すべき物を除いては、これを交付しなければならない。
 没収物を処分した後前項の請求があつた場合には、検察官は、公売によつて得た代価を交付しなければならない。



 〔偽造・変造物に対する処置〕
第四百九十八条
 偽造し、又は変造された物を返還する場合には、偽造又は変造の部分をその物に表示しなければならない。
 偽造し、又は変造された物が押収されていないときは、これを提出させて、前項に規定する手続をしなければならない。但し、その物が公務所に属するときは、偽造又は変造の部分を公務所に通知して相当な処分をさせなければならない。



 〔押収物還付の公告〕
第四百九十九条
 押収物の還付を受けるべき者の所在が判らないため、又はその他の事由によつて、その物を還付することができない場合には、検察官は、その旨を政令で定める方法によつて公告しなければならない。
 公告をしたときから六箇月以内に還付の請求がないときは、その物は、国庫に帰属する。
 前項の期間内でも、価値のない物は、これを廃棄し、保管に不便な物は、これを公売してその代価を保管することができる。



 〔訴訟費用負担の裁判の執行免除の申立〕
第五百条
 訴訟費用の負担を命ぜられた者は、貧困のためこれを完納することができないときは、裁判所の規則の定めるところにより、訴訟費用の全部又は一部について、その裁判の執行の免除の申立をすることができる。
 前項の申立は、訴訟費用の負担を命ずる裁判が確定した後二十日以内にこれをしなければならない。



 〔裁判解釈の申立〕
第五百一条
 刑の言渡を受けた者は、裁判の解釈について疑があるときは、言渡をした裁判所に裁判の解釈を求める申立をすることができる。



 〔裁判執行に関する異議の申立〕
第五百二条
 裁判の執行を受ける者又はその法定代理人若しくは保佐人は、執行に関し検察官のした処分を不当とするときは、言渡をした裁判所に異議の申立をすることができる。



 〔申立の取下〕
第五百三条
 前三条の申立は、決定があるまでこれを取り下げることができる。
 第三百六十六条の規定は、前三条の申立及びその取下についてこれを準用する。



 〔即時抗告〕
第五百四条
 第五百条乃至第五百二条の申立についてした決定に対しては、即時抗告をすることができる。



 〔労役場留置の執行〕
第五百五条
 罰金又は科料を完納することができない場合における労役場留置の執行については、刑の執行に関する規定を準用する。



 〔財産刑等の執行費用の取立〕
第五百六条
 第四百九十条第一項の裁判の執行の費用は、執行を受ける者の負担とし、民事執行法その他強制執行の手続に関する法令の規定に従い、執行と同時にこれを取り立てなければならない。





   附 則
 この法律は、昭和二十四年一月一日から、これを施行する。





   附 則 〔平成一二年一二月六日法律第一四二号抄〕





 (施行期日)
第一条 この法律は、平成十三年四月一日から施行する。


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