刑事訴訟法

 第一編 総則
      第一章 裁判所の管轄
      第二章 裁判所職員の除斥及び忌避
      第三章 訴訟能力
      第四章 弁護及び補佐
      第五章 裁判
      第六章 書類及び送達
      第七章 期間
      第八章 被告人の召喚、勾引及び勾留
      第九章 押収及び捜索
      第十章 検証
      第十一章 証人尋問
      第十二章 鑑定
      第十三章 通訳及び翻訳
      第十四章 証拠保全
      第十五章 訴訟費用
      第十六章 費用の補償

 第二編 第一審
     
   第一章 捜査
      第二章 公訴
      第三章 公判
       第一節 公判準備及び公判手続
       第二節 証拠
       第三節 公判の裁判

 第三編 上訴
     第一章 通則
        第二章 控訴
        第三章 上告
       第四章 抗告

 第四編 再審
 第五編 非常上告
 第六編 略式手続
 第七編 裁判の執行
 附則

 

 

 

 

 


  第二編 第一審

   第一章 捜査

 〔司法警察職員〕
第百八十九条
 警察官は、それぞれ、他の法律又は国家公安委員会若しくは都道府県公安委員会の定めるところにより、司法警察職員として職務を行う。司法警察職員は、犯罪があると思料するときは、犯人及び証拠を捜査するものとする。



 〔特別司法警察職員〕
第百九十条
 森林、鉄道その他特別の事項について司法警察職員として職務を行うべき者及びその職務の範囲は、別に法律でこれを定める。



 〔検察官・検察事務官の捜査権〕
第百九十一条
 検察官は、必要と認めるときは、自ら犯罪を捜査することができる。
 検察事務官は、検察官の指揮を受け、捜査をしなければならない。



 〔検察官と公安委員会及び司法警察職員の協力〕
第百九十二条
 検察官と都道府県公安委員会及び司法警察職員とは、捜査に関し、互に協力しなければならない。



 〔検察官の司法警察職員に対する指示権・指揮権〕
第百九十三条
 検察官は、その管轄区域により、司法警察職員に対し、その捜査に関し、必要な一般的指示をすることができる。この場合における指示は、捜査を適正にし、その他公訴の遂行を全うするために必要な事項に関する一般的な準則を定めることによつて行うものとする。
 検察官は、その管轄区域により、司法警察職員に対し、捜査の協力を求めるため必要な一般的指揮をすることができる。
 検察官は、自ら犯罪を捜査する場合において必要があるときは、司法警察職員を指揮して捜査の補助をさせることができる。
 前三項の場合において、司法警察職員は、検察官の指示又は指揮に従わなければならない。



 〔司法警察職員に対する懲戒罷免の訴追権〕
第百九十四条
 検事総長、検事長又は検事正は、司法警察職員が正当な理由がなく検察官の指示又は指揮に従わない場合において必要と認めるときは、警察官たる司法警察職員については、国家公安委員会又は都道府県公安委員会に、警察官たる者以外の司法警察職員については、その者を懲戒し又は罷免する権限を有する者に、それぞれ懲戒又は罷免の訴追をすることができる。
 国家公安委員会、都道府県公安委員会又は警察官たる者以外の司法警察職員を懲戒し若しくは罷免する権限を有する者は、前項の訴追が理由のあるものと認めるときは、別に法律の定めるところにより、訴追を受けた者を懲戒し又は罷免しなければならない。



 〔検察官等の管轄区域外における職務の執行〕
第百九十五条
 検察官及び検察事務官は、捜査のため必要があるときは、管轄区域外で職務を行うことができる。



 〔捜査関係者に対する注意規定〕
第百九十六条
 検察官、検察事務官及び司法警察職員並びに弁護人その他職務上捜査に関係のある者は、被疑者その他の者の名誉を害しないように注意し、且つ、捜査の妨げとならないように注意しなければならない。



 〔捜査のための取調〕
第百九十七条
 捜査については、その目的を達するため必要な取調をすることができる。但し、強制の処分は、この法律に特別の定のある場合でなければ、これをすることができない。
 捜査については、公務所又は公私の団体に照会して必要な事項の報告を求めることができる。



 〔被疑者の任意出頭供述録取〕
第百九十八条
 検察官、検察事務官又は司法警察職員は、犯罪の捜査をするについて必要があるときは、被疑者の出頭を求め、これを取り調べることができる。但し、被疑者は、逮捕又は勾留されている場合を除いては、出頭を拒み、又は出頭後、何時でも退去することができる。
 前項の取調に際しては、被疑者に対し、あらかじめ、自己の意思に反して供述をする必要がない旨を告げなければならない。
 被疑者の供述は、これを調書に録取することができる。
 前項の調書は、これを被疑者に閲覧させ、又は読み聞かせて、誤がないかどうかを問い、被疑者が増減変更の申立をしたときは、その供述を調書に記載しなければならない 。
 被疑者が、調書に誤のないことを申し立てたときは、これに署名押印することを求めることができる。但し、これを拒絶した場合は、この限りでない。



 〔逮捕状による逮捕〕
第百九十九条
 検察官、検察事務官又は司法警察職員は、被疑者が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由があるときは、裁判官のあらかじめ発する逮捕状により、これを逮捕することができる。ただし、三十万円(刑法、暴力行為等処罰に関する法律及び経済関係罰則の整備に関する法律の罪以外の罪については、当分の間、二万円)以下の罰金、拘留又は科料に当たる罪については、被疑者が定まつた住居を有しない場合又は正当な理由がなく前条の規定による出頭の求めに応じない場合に限る。
 裁判官は、被疑者が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由があると認めるときは、検察官又は司法警察員(警察官たる司法警察員については、国家公安委員会又は都道府県公安委員会が指定する警部以上の者に限る。以下本条において同じ。)の請求により、前項の逮捕状を発する。但し、明らかに逮捕の必要がないと認めるときは、この限りでない。
 検察官又は司法警察員は、第一項の逮捕状を請求する場合において、同一の犯罪事実についてその被疑者に対し前に逮捕状の請求又はその発付があつたときは、その旨を裁判所に通知しなければならない。



 〔逮捕状の記載事項〕
第二百条
 逮捕状には、被疑者の氏名及び住居、罪名、被疑事実の要旨、引致すべき官公署その他の場所、有効期間及びその期間経過後は逮捕をすることができず令状はこれを返還しなければならない旨並びに発付の年月日その他裁判所の規則で定める事項を記載し、裁判官が、これに記名押印しなければならない。
 第六十四条第二項及び第三項の規定は、逮捕状についてこれを準用する。



 〔逮捕状による逮捕〕
第二百一条
 逮捕状により被疑者を逮捕するには、逮捕状を被疑者に示さなければならない。
 第七十三条第三項の規定は、逮捕状により被疑者を逮捕する場合にこれを準用する。



 〔引致〕
第二百二条
 検察事務官又は司法巡査が逮捕状により被疑者を逮捕したときは、直ちに、検察事務官はこれを検察官に、司法巡査はこれを司法警察員に引致しなければならない。



 〔司法警察員の逮捕した被疑者の取扱〕
第二百三条
 司法警察員は、逮捕状により被疑者を逮捕したとき、又は逮捕状により逮捕された被疑者を受け取つたときは、直ちに犯罪事実の要旨及び弁護人を選任することができる旨を告げた上、弁解の機会を与え、留置の必要がないと思料するときは直ちにこれを釈放し、留置の必要があると思料するときは被疑者が身体を拘束された時から四十八時間以内に書類及び証拠物とともにこれを検査官に送致する手続をしなければならない。
 前項の場合において、被疑者に弁護人の有無を尋ね、弁護人があるときは、弁護人を選任することができる旨は、これを告げることを要しない。
 第一項の時間の制限内に送致の手続をしないときは、直ちに被疑者を釈放しなければならない。



 〔検察官の逮捕した被疑者の取扱〕
第二百四条
 検察官は、逮捕状により被疑者を逮捕したとき、又は逮捕状により逮捕された被疑者(前条の規定により送致された被疑者を除く。)を受け取つたときは、直ちに犯罪事実の要旨及び弁護人を選任することができる旨を告げた上、弁解の機会を与え、留置の必要がないと思料するときは直ちにこれを釈放し、留置の必要があると思料するときは被疑者が身体を拘束された時から四十八時間以内に裁判官に被疑者の勾留を請求しなければならない。但し、その時間の制限内に公訴を提起したときは、勾留の請求をすることを要しない。
 前項の時間の制限内に勾留の請求又は公訴の提起をしないときは、直ちに被疑者を釈放しなければならない。
 前条第二項の規定は、第一項の場合にこれを準用する。



 〔送致された被疑者の取扱〕
第二百五条
 検察官は、第二百三条の規定により送致された被疑者を受け取つたときは、弁解の機会を与え、留置の必要がないと思料するときは直ちにこれを釈放し、留置の必要があると思料するときは被疑者を受け取つた時から二十四時間以内に裁判官に被疑者の勾留を請求しなければならない。
 前項の時間の制限は、被疑者が身体を拘束された時から七十二時間を超えることができない。
 前二項の時間の制限内に公訴を提起したときは、勾留の請求をすることを要しない。
 第一項及び第二項の時間の制限内に勾留の請求又は公訴の提起をしないときは、直ちに被疑者を釈放しなければならない。



 〔制限時間遅延の場合の勾留請求〕
第二百六条
 検察官又は司法警察員がやむを得ない事情によつて前三条の時間の制限に従うことができなかつたときは、検察官は、裁判官にその事由を疎明して、被疑者の勾留を請求することができる。
 前項の請求を受けた裁判官は、その遅延がやむを得ない事由に基く正当なものであると認める場合でなければ、勾留状を発することができない。



 〔被疑者の勾留〕
第二百七条
 前三条の規定による勾留の請求を受けた裁判官は、その処分に関し裁判所又は裁判長と同一の権限を有する。但し、保釈については、この限りでない。裁判官は、前項の勾留の請求を受けたときは、速やかに勾留状を発しなければならない。但し、勾留の理由がないと認めるとき、及び前条第二項の規定により勾留状を発することができないときは、勾留状を発しないで、直ちに被疑者の釈放を命じなければならない。



 〔勾留期間〕
第二百八条
 前条の規定により被疑者を勾留した事件につき、勾留の請求をした日から十日以内に公訴を提起しないときは、検察官は、直ちに被疑者を釈放しなければならない。
 裁判官は、やむを得ない事由があると認めるときは、検察官の請求により、前項の期間を延長することができる。この期間の延長は、通じて十日を超えることができない。



 〔勾留期間の再延長〕
第二百八条の二
 裁判官は、刑法第二編第二章乃至第四章又は第八章の罪にあたる事件については、検察官の請求により、前条第二項の規定により延長された期間を更に延長することができる。この期間の延長は、通じて五日を超えることができない。



 〔準用規定〕
第二百九条
 第七十四条、第七十五条及び第七十八条の規定は、逮捕状による逮捕についてこれを準用する。



 〔緊急逮捕〕
第二百十条
 検察官、検察事務官又は司法警察職員は、死刑又は無期若しくは長期三年以上の懲役若しくは禁錮にあたる罪を犯したことを疑うに足りる充分な理由がある場合で、急速を要し、裁判官の逮捕状を求めることができないときは、その理由を告げて被疑者を逮捕することができる。この場合には、直ちに裁判官の逮捕状を求める手続をしなければならない。逮捕状が発せられないときは、直ちに被疑者を釈放しなければならない。
 第二百条の規定は、前項の逮捕状についてこれを準用する。



 〔緊急逮捕の準用規定〕
第二百十一条
 前条の規定により被疑者が逮捕された場合には、第百九十九条の規定により被疑者が逮捕された場合に関する規定を準用する。



 〔現行犯人〕
第二百十二条
 現に罪を行い、又は現に罪を行い終つた者を現行犯人とする。
 左の各号の一にあたる者が、罪を行い終つてから間がないと明らかに認められるときは、これを現行犯人とみなす。
 一
 犯人として追呼されているとき。
 二
 贓物又は明らかに犯罪の用に供したと思われる兇器その他の物を所持しているとき。
 三
 身体又は被服に犯罪の顕著な証跡があるとき。
 四
 誰何されて逃走しようとするとき。



 〔現行犯逮捕〕
第二百十三条
 現行犯人は、何人でも、逮捕状なくしてこれを逮捕することができる。



 〔現行犯人の引渡〕
第二百十四条
 検察官、検察事務官及び司法警察職員以外の者は、現行犯人を逮捕したときは、直ちにこれを地方検察庁若しくは区検察庁の検察官又は司法警察職員に引き渡さなければならない。



 〔司法巡査の現行犯人取扱方法〕
第二百十五条
 司法巡査は、現行犯人を受け取つたときは、速やかにこれを司法警察員に引致しなければならない。
 司法巡査は、犯人を受け取つた場合には、逮捕者の氏名、住居及び逮捕の事由を聴き取らなければならない。必要があるときは、逮捕者に対しともに官公署に行くことを求めることができる。



 〔現行犯逮捕の準用規定〕
第二百十六条
 現行犯人が逮捕された場合には、第百九十九条の規定により被疑者が逮捕された場合に関する規定を準用する。



 〔軽微な事件の現行犯逮捕〕
第二百十七条
 三十万円(刑法、暴力行為等処罰に関する法律及び経済関係罰則の整備に関する法律の罪以外の罪については、当分の間、二万円)以下の罰金、拘留又は科料に当たる罪の現行犯については、犯人の住居若しくは氏名が明らかでない場合又は犯人が逃亡するおそれがある場合に限り、第二百十三条から前条までの規定を適用する。



 〔犯罪捜査のための差押・捜索・検証〕
第二百十八条
 検察官、検察事務官又は司法警察職員は、犯罪の捜査をするについて必要があるときは、裁判官の発する令状により、差押、捜索又は検証をすることができる。この場合において身体の検査は、身体検査令状によらなければならない。
 身体の拘束を受けている被疑者の指紋若しくは足型を採取し、身長若しくは体重を測定し、又は写真を撮影するには、被疑者を裸にしない限り、前項の令状によることを要しない。
 第一項の令状は、検察官、検察事務官又は司法警察員の請求により、これを発する。
 検察官、検察事務官又は司法警察員は、身体検査令状の請求をするには、身体の検査を必要とする理由及び身体の検査を受ける者の性別、健康状態その他裁判所の規則で定める事項を示さなければならない。
 裁判官は、身体の検査に関し、適当と認める条件を附することができる。



 〔犯罪捜査のための差押・捜索・検証の令状〕
第二百十九条
 前条の令状には、被疑者若しくは被告人の氏名、罪名、差し押えるべき物、捜索すべき場所、身体若しくは物、検証すべき場所若しくは物又は検査すべき身体及び身体の検査に関する条件、有効期間及びその期間経過後は差押、捜索又は検証に着手することができず令状はこれを返還しなければならない旨並びに発付の年月日その他裁
 判所の規則で定める事項を記載し、裁判官が、これに記名押印しなければならない。
 第六十四条第二項の規定は、前条の令状についてこれを準用する。



 〔令状を要しない差押、捜索、検証〕
第二百二十条
 検察官、検察事務官又は司法警察職員は、第百九十九条の規定により被疑者を逮捕する場合又は現行犯人を逮捕する場合において必要があるときは、左の処分をすることができる。第二百十条の規定により被疑者を逮捕する場合において必要があるときも、同様である。
 一 
人の住居又は人の看守する邸宅、建造物若しくは船舶内に入り被疑者の捜索をすること。
 二 
逮捕の現場で差押、捜索又は検証をすること。
 前項後段の場合において逮捕状が得られなかつたときは、差押物は、直ちにこれを還付しなければならない。
 第一項の処分をするには、令状は、これを必要としない。
 第一項第二号及び前項の規定は、検察事務官又は司法警察職員が勾引状又は勾留状を執行する場合にこれを準用する。被疑者に対して発せられた勾引状又は勾留状を執行する場合には、第一項第一号の規定をも準用する。



 〔領置〕
第二百二十一条
 検察官、検察事務官又は司法警察職員は、被疑者その他の者が遺留した物又は所有者、所持者若しくは保管者が任意に提出した物は、これを領置することができる。



 〔準用規定〕
第二百二十二条
 第九十九条、第百条、第百二条乃至第百五条、第百十条乃至第百十二条、第百十四条、第百十五条及び第百十八条乃至第百二十四条の規定は、検察官、検察事務官又は司法警察職員が第二百十八条、第二百二十条及び前条の規定によつてする押収又は捜索について、第百十条、第百十二条、第百十四条、第百十八条、第百二十九条、第百三十一条及び第百三十七条乃至第百四十条の規定は、検察官、検察事務官又は司法警察職員が第二百十八条又は第二百二十条の規定によつてする検証についてこれを準用する。但し、司法巡査は、第百二十二条乃至第百二十四条に規定する処分をすることができない。
 第二百二十条の規定により被疑者を捜索する場合において急速を要するときは、第百十四条第二項の規定によることを要しない。
 第百十六条及び第百十七条の規定は、検察官、検察事務官又は司法警察職員が第二百十八条の規定によつてする押収又は捜索について、これを準用する。
 日出前、日没後には、令状に夜間でも検証をすることができる旨の記載がなければ、検察官、検察事務官又は司法警察職員は、第二百十八条の規定によつてする検証のため、人の住居又は人の看守する邸宅、建造物若しくは船舶内に入ることができない。但し、第百十七条に規定する場所については、この限りでない。
 日没前検証に着手したときは、日没後でもその処分を継続することができる。
 検察官、検察事務官又は司法警察職員は、第二百十八条の規定により差押、捜索又は検証をするについて必要があるときは、被疑者をこれに立ち会わせることができる。
 第一項の規定により、身体の検査を拒んだ者を過料に処し、又はこれに賠償を命ずべきときは、裁判所にその処分を請求しなければならない。



 〔電気通信の傍受〕
第二百二十二条の二
 通信の当事者のいずれの同意も得ないで電気通信の傍受を行う強制の処分については、別に法律で定めるところによる。



 〔第三者の取調・鑑定・通訳・翻訳の嘱託〕
第二百二十三条
 検察官、検察事務官又は司法警察職員は、犯罪の捜査をするについて必要があるときは、被疑者以外の者の出頭を求め、これを取り調べ、又はこれに鑑定、通訳若しくは翻訳を嘱託することができる。
 第百九十八条第一項但書及び第三項乃至第五項の規定は、前項の場合にこれを準用する。



 〔鑑定のための留置〕
第二百二十四条
 前条第一項の規定により鑑定を嘱託する場合において第百六十七条第一項に規定する処分を必要とするときは、検察官、検察事務官又は司法警察員は、裁判官にその処分を請求しなければならない。
 裁判官は、前項の請求を相当と認めるときは、第百六十七条の場合に準じてその処分をしなければならない。この場合には、第百六十七条の二の規定を準用する。



 〔鑑定上必要な処分〕
第二百二十五条
 第二百二十三条第一項の規定による鑑定の嘱託を受けた者は、裁判官の許可を受けて、第百六十八条第一項に規定する処分をすることができる。
 前項の許可の請求は、検察官、検察事務官又は司法警察員からこれをしなければならない。
 裁判官は、前項の請求を相当と認めるときは、許可状を発しなければならない。
 第百六十八条第二項乃至第四項及び第六項の規定は、前項の許可状についてこれを準用する。



 〔出頭又は供述拒否の場合の証人尋問の請求〕
第二百二十六条
 犯罪の捜査に欠くことのできない知識を有すると明らかに認められる者が、第二百二十三条第一項の規定による取調に対して、出頭又は供述を拒んだ場合には、第一回の公判期日前に限り、検察官は、裁判官にその者の証人尋問を請求することができる。



 〔任意供述した場合の証人尋問の請求〕
第二百二十七条
 第二百二十三条第一項の規定による検察官、検察事務官又は司法警察職員の取調に際して任意の供述をした者が、公判期日においては圧迫を受け前にした供述と異る供述をする虞があり、且つ、その者の供述が犯罪の証明に欠くことができないと認められる場合には、第一回の公判期日前に限り、検察官は、裁判官にその者の証人尋問を請求することができる。
 前項の請求をするには、検察官は、証人尋問を必要とする理由及びそれが犯罪の証明に欠くことができないものであることを疎明しなければならない。



 〔証人尋問の手続〕
第二百二十八条
 前二条の請求を受けた裁判官は、証人の尋問に関し、裁判所又は裁判長と同一の権限を有する。
 裁判官は、捜査に支障を生ずる虞がないと認めるときは、被告人、被疑者又は弁護人を前項の尋問に立ち会わせることができる。



 〔検視〕
第二百二十九条
 変死者又は変死の疑のある死体があるときは、その所在地を管轄する地方検察庁又は区検察庁の検察官は、検視をしなければならない。
 検察官は、検察事務官又は司法警察員に前項の処分をさせることができる。



 〔被害者の告訴〕
第二百三十条
 犯罪により害を被つた者は、告訴をすることができる。



 〔法定代理人及び近親者の告訴〕
第二百三十一条
 被害者の法定代理人は、独立して告訴をすることができる。
 被害者が死亡したときは、その配偶者、直系の親族又は兄弟姉妹は、告訴をすることができる。但し、被害者の明示した意思に反することはできない。



 〔親族の告訴〕
第二百三十二条
 被害者の法定代理人が被疑者であるとき、被疑者の配偶者であるとき、又は被疑者の四親等内の血族若しくは三親等内の姻族であるときは、被害者の親族は、独立して告訴をすることができる。



 〔死者の名誉毀損罪の告訴〕
第二百三十三条
 死者の名誉を毀損した罪については、死者の親族又は子孫は、告訴をすることができる。
 名誉を毀損した罪について被害者が告訴をしないで死亡したときも、前項と同様である。但し、被害者の明示した意思に反することはできない。



 〔告訴人の指定〕
第二百三十四条
 親告罪について告訴をすることができる者がない場合には、検察官は、利害関係人の申立により告訴をすることができる者を指定することができる。



 〔親告罪の告訴期間〕
第二百三十五条
 親告罪の告訴は、犯人を知つた日から六箇月を経過したときは、これをすることができない。ただし、次に掲げる告訴については、この限りでない。
 一 
刑法第百七十六条から第百七十八条まで、第二百二十五条若しくは第二百二十七条第一項(第二百二十五条の罪を犯した者を幇助する目的に係る部分に限る。)若しくは第三項の罪又はこれらの罪に係る未遂罪につき行う告訴
 二 
刑法第二百三十二条第二項の規定により外国の代表者が行う告訴及び日本国に派遣された外国の使節に対する同法第二百三十条又は第二百三十一条の罪につきその使節が行う告訴
 刑法第二百二十九条但書の場合における告訴は、婚姻の無効又は取消の裁判が確定した日から六箇月以内にこれをしなければ、その効力がない。



 〔告訴期間の独立〕
第二百三十六条
 告訴をすることができる者が数人ある場合には、一人の期間の徒過は、他の者に対しその効力を及ぼさない。



 〔告訴の取消〕
第二百三十七条
 告訴は、公訴の提起があるまでこれを取り消すことができる。
 告訴の取消をした者は、更に告訴をすることができない。
 前二項の規定は、請求を待つて受理すべき事件についての請求についてこれを準用する。



 〔告訴不可分〕
第二百三十八条
 親告罪について共犯の一人又は数人に対してした告訴又はその取消は、他の共犯に対しても、その効力を生ずる。
 前項の規定は、告発又は請求を待つて受理すべき事件についての告発若しくは請求又はその取消についてこれを準用する。



 〔告発〕
第二百三十九条
 何人でも、犯罪があると思料するときは、告発をすることができる。
 官吏又は公吏は、その職務を行うことにより犯罪があると思料するときは、告発をしなければならない。



 〔告訴の代理〕
第二百四十条
 告訴は、代理人によりこれをすることができる。告訴の取消についても、同様である。



 〔告訴告発の方式〕
第二百四十一条
 告訴又は告発は、書面又は口頭で検察官又は司法警察員にこれをしなければならない。
 検察官又は司法警察員は、口頭による告訴又は告発を受けたときは調書を作らなければならない。



 〔告訴告発事件の送付〕
第二百四十二条
 司法警察員は、告訴又は告発を受けたときは、速やかにこれに関する書類及び証拠物を検察官に送付しなければならない。



 〔告訴告発の取消の方式〕
第二百四十三条
 前二条の規定は、告訴又は告発の取消についてこれを準用する。



 〔外国代表者の告訴の方式〕
第二百四十四条
 刑法第二百三十二条第二項の規定により外国の代表者が行う告訴又はその取消は、第二百四十一条及び前条の規定にかかわらず、外務大臣にこれをすることができる。日本国に派遣された外国の使節に対する刑法第二百三十条又は第二百三十一条の罪につきその使節が行う告訴又はその取消も、同様である。



 〔自首〕
第二百四十五条
 第二百四十一条及び第二百四十二条の規定は、自首についてこれを準用する。



 〔事件送致〕
第二百四十六条
 司法警察員は、犯罪の捜査をしたときは、この法律に特別の定のある場合を除いては、速やかに書類及び証拠物とともに事件を検察官に送致しなければならない。但し、検察官が指定した事件については、この限りでない。





   第二章 公訴


 〔検察官起訴独占主義〕
第二百四十七条
 公訴は、検察官がこれを行う。



 〔起訴便宜主義〕
第二百四十八条
 犯人の性格、年齢及び境遇、犯罪の軽重及び情状並びに犯罪後の情況により訴追を必要としないときは、公訴を提起しないことができる。



 〔不告不理の原則〕
第二百四十九条
 公訴は、検察官の指定した被告人以外の者にその効力を及ぼさない。



 〔公訴時効〕
第二百五十条
 時効は、左の期間を経過することによつて完成する。
 一 
死刑にあたる罪については十五年
 二 
無期の懲役又は禁錮にあたる罪については十年
 三 
長期十年以上の懲役又は禁錮にあたる罪については七年
 四 
長期十年未満の懲役又は禁錮にあたる罪については五年
 五 
長期五年未満の懲役若しくは禁錮又は罰金にあたる罪については三年
 六 
拘留又は科料にあたる罪については一年



 〔併科刑選択刑についての公訴時効の適用〕
第二百五十一条
 二以上の主刑を併科し、又は二以上の主刑中その一を科すべき罪については、その重い刑に従つて、前条の規定を適用する。



 〔刑の加減と公訴時効の適用〕
第二百五十二条
 刑法により刑を加重し、又は減軽すべき場合には、加重し、又は減軽しない刑に従つて、第二百五十条の規定を適用する。



 〔時効の起算点〕
第二百五十三条
 時効は、犯罪行為が終つた時から進行する。
 共犯の場合には、最終の行為が終つた時から、すべての共犯に対して時効の期間を起算する。



 〔公訴提起による時効の停止〕
第二百五十四条
 時効は、当該事件についてした公訴の提起によつてその進行を停止し、管轄違又は公訴棄却の裁判が確定した時からその進行を始める。
 共犯の一人に対してした公訴の提起による時効の停止は、他の共犯に対してその効力を有する。この場合において、停止した時効は、当該事件についてした裁判が確定した時からその進行を始める。



 〔起訴状謄本送達不能等による時効の停止〕
第二百五十五条
 犯人が国外にいる場合又は犯人が逃げ隠れているため有効に起訴状の謄本の送達若しくは略式命令の告知ができなかつた場合には、時効は、その国外にいる期間又は逃げ隠れている期間その進行を停止する。
 犯人が国外にいること又は犯人が逃げ隠れているため有効に起訴状の謄本の送達若しくは略式命令の告知ができなかつたことの証明に必要な事項は、裁判所の規則でこれを定める。



 〔起訴状〕
第二百五十六条
 公訴の提起は、起訴状を提出してこれをしなければならない。
 起訴状には、左の事項を記載しなければならない。
 一 
被告人の氏名その他被告人を特定するに足りる事項
 二 
公訴事実
 三 
罪名
 公訴事実は、訴因を明示してこれを記載しなければならない。訴因を明示するには、できる限り日時、場所及び方法を以て罪となるべき事実を特定してこれをしなければならない。
 罪名は、適用すべき罰条を示してこれを記載しなければならない。但し、罰条の記載の誤は、被告人の防禦に実質的な不利益を生ずる虞がない限り、公訴提起の効力に影響を及ぼさない。
 数個の訴因及び罰条は、予備的に又は択一的にこれを記載することができる。
 起訴状には、裁判官に事件につき予断を生ぜしめる虞のある書類その他の物を添附し、又はその内容を引用してはならない。



 〔公訴の取消〕
第二百五十七条
 公訴は、第一審の判決があるまでこれを取り消すことができる。



 〔被疑事件の移送〕
第二百五十八条
 検察官は、事件がその所属検察庁の対応する裁判所の管轄に属しないものと思料するときは、書類及び証拠物とともにその事件を管轄裁判所に対応する検察庁の検察官に送致しなければならない。



 〔不起訴処分の通告〕
第二百五十九条
 検察官は、事件につき公訴を提起しない処分をした場合において、被疑者の請求があるときは、速やかにその旨をこれに告げなければならない。



 〔告訴事件等の起訴不起訴の通知〕
第二百六十条
 検察官は、告訴、告発又は請求のあつた事件について、公訴を提起し、又はこれを提起しない処分をしたときは、速やかにその旨を告訴人、告発人又は請求人に通知しなければならない。公訴を取り消し、又は事件を他の検察庁の検察官に送致したときも、同様である。



 〔告訴事件等の不起訴理由の通告〕
第二百六十一条
 検察官は、告訴、告発又は請求のあつた事件について公訴を提起しない処分をした場合において、告訴人、告発人又は請求人の請求があるときは、速やかに告訴人、告発人又は請求人にその理由を告げなければならない。



 〔公務員職権濫用罪の告訴告発事件の審判請求〕
第二百六十二条
 刑法第百九十三条から第百九十六条まで又は破壊活動防止法(昭和二十七年法律第二百四十号)第四十五条若しくは無差別大量殺人行為を行った団体の規制に関する法律(平成十一年法律第百四十七号)第四十二条若しくは第四十三条の罪について告訴又は告発をした者は、検察官の公訴を提起しない処分に不服があるときは、その検察官所属の検察庁の所在地を管轄する地方裁判所に事件を裁判所の審判に付することを請求することができる。
 前項の請求は、第二百六十条の通知を受けた日から七日以内に、請求書を公訴を提起しない処分をした検察官に差し出してこれをしなければならない。



 〔審判請求の取下〕
第二百六十三条
 前条第一項の請求は、第二百六十六条の決定があるまでこれを取り下げることができる。
 前項の取下をした者は、その事件について更に前条第一項の請求をすることができない。



 〔再度の考案による起訴〕
第二百六十四条
 検察官は、第二百六十二条第一項の請求を理由があるものと認めるときは、公訴を提起しなければならない。



 〔審判請求事件の審判〕
第二百六十五条
 第二百六十二条第一項の請求についての審理及び裁判は、合議体でこれをしなければならない。
 裁判所は、必要があるときは、合議体の構成員に事実の取調をさせ、又は地方裁判所若しくは簡易裁判所の裁判官にこれを嘱託することができる。この場合には、受命裁判官及び受託裁判官は、裁判所又は裁判長と同一の権限を有する。



 〔審判請求事件の決定〕
第二百六十六条
 裁判所は、第二百六十二条第一項の請求を受けたときは、左の区別に従い、決定をしなければならない。
 一 
請求が法令上の方式に違反し、若しくは請求権の消滅後にされたものであるとき、又は請求が理由のないときは、請求を棄却する。
 二 
請求が理由のあるときは、事件を管轄地方裁判所の審判に付する。



 〔公訴提起とみなされる決定〕
第二百六十七条
 前条第二号の決定があつたときは、その事件について公訴の提起があつたものとみなす。



 〔公訴維持のための指定弁護士〕
第二百六十八条
 裁判所は、第二百六十六条第二号の規定により事件がその裁判所の審判に付されたときは、その事件について公訴の維持にあたる者を弁護士の中から指定しなければならない。
 前項の指定を受けた弁護士は、事件について公訴を維持するため、裁判の確定に至るまで検察官の職務を行う。但し、検察事務官及び司法警察職員に対する捜査の指揮は、検察官に嘱託してこれをしなければならない。
 前項の規定により検察官の職務を行う弁護士は、これを法令により公務に従事する職員とみなす。
 裁判所は、第一項の指定を受けた弁護士がその職務を行うに適さないと認めるときその他特別の事情があるときは、何時でもその指定を取り消すことができる。
 第一項の指定を受けた弁護士には、政令で定める額の手当を給する。



 〔審判請求事件の費用の賠償〕
第二百六十九条
 裁判所は、第二百六十二条第一項の請求を棄却する場合又はその請求の取下があつた場合には、決定で、請求者に、その請求に関する手続によつて生じた費用の全部又は一部の賠償を命ずることができる。この決定に対しては、即時抗告をすることができる。



 〔検察官の閲覧謄写権〕
第二百七十条
 検察官は、公訴の提起後は、訴訟に関する書類及び証拠物を閲覧し、且つ謄写することができる。
 前項の規定にかかわらず、第百五十七条の四第三項に規定する記録媒体は、謄写することができない。





   第三章 公判


    第一節 公判準備及び公判手続

 〔起訴状謄本の送達〕
第二百七十一条
 裁判所は、公訴の提起があつたときは、遅滞なく起訴状の謄本を被告人に送達しなければならない。
 公訴の提起があつた日から二箇月以内に起訴状の謄本が送達されないときは、公訴の提起は、さかのぼつてその効力を失う。



 〔弁護人選任についての告知〕
第二百七十二条
 裁判所は、公訴の提起があつたときは、遅滞なく被告人に対し、弁護人を選任することができる旨及び貧困その他の事由により弁護人を選任することができないときは弁護人の選任を請求することができる旨を知らせなければならない。但し、被告人に弁護人があるときは、この限りでない。



 〔公判期日の指定・召喚・通知〕
第二百七十三条
 裁判長は、公判期日を定めなければならない。
 公判期日には、被告人を召喚しなければならない。
 公判期日は、これを検察官、弁護人及び補佐人に通知しなければならない。



 〔裁判所構内の被告人の特例〕
第二百七十四条
 裁判所の構内にいる被告人に対し公判期日を通知したときは、召喚状の送達があつた場合と同一の効力を有する。



 〔召喚の猶予期間〕
第二百七十五条
 第一回の公判期日と被告人に対する召喚状の送達との間には、裁判所の規則で定める猶予期間を置かなければならない。



 〔公判期日の変更〕
第二百七十六条
 裁判所は、検察官、被告人若しくは弁護人の請求により又は職権で、公判期日を変更することができる。
 公判期日を変更するには、裁判所の規則の定めるところにより、あらかじめ、検察官及び被告人又は弁護人の意見を聴かなければならない。但し、急速を要する場合は、この限りでない。
 前項但書の場合には、変更後の公判期日において、まず、検察官及び被告人又は弁護人に対し、異議を申し立てる機会を与えなければならない。



 〔期日変更権濫用に対する救済〕
第二百七十七条
 裁判所がその権限を濫用して公判期日を変更したときは、訴訟関係人は、最高裁判所の規則又は訓令の定めるところにより、司法行政監督上の措置を求めることができる。



 〔出頭不能の場合の措置〕
第二百七十八条
 公判期日に召喚を受けた者が病気その他の事由によつて出頭することができないときは、裁判所の規則の定めるところにより、医師の診断書その他の資料を提出しなければならない。



 〔公務所等への照会〕
第二百七十九条
 裁判所は、検察官、被告人若しくは弁護人の請求により又は職権で、公務所又は公私の団体に照会して必要な事項の報告を求めることができる。



 〔勾留に関する処分〕
第二百八十条
 公訴の提起があつた後第一回の公判期日までは、勾留に関する処分は、裁判官がこれを行う。
 第百九十九条若しくは第二百十条の規定により逮捕され、又は現行犯人として逮捕された被疑者でまだ勾留されていないものについて第二百四条又は第二百五条の時間の制限内に公訴の提起があつた場合には、裁判官は、速やかに、被告事件を告げ、これに関する陳述を聴き、勾留状を発しないときは、直ちにその釈放を命じなければならない。
 前二項の裁判官は、その処分に関し、裁判所又は裁判長と同一の権限を有する。



 〔公判期日外の証人尋問〕
第二百八十一条
 証人については、裁判所は、第百五十八条に掲げる事項を考慮した上、検察官及び被告人又は弁護人の意見を聴き必要と認めるときに限り、公判期日外においてこれを尋問することができる。



 〔被告人の退席〕
第二百八十一条の二
 裁判所は、公判期日外における証人尋問に被告人が立ち会つた場合において、証人が被告人の面前(第百五十七条の三第一項に規定する措置を採る場合及び第百五十七条の四第一項に規定する方法による場合を含む。)においては圧迫を受け充分な供述をすることができないと認めるときは、弁護人が立ち会つている場合に限り、検察官及び弁護人の意見を聴き、その証人の供述中被告人を退席させることができる。この場合には、供述終了後被告人に証言の要旨を告知し、その証人を尋問する機会を与えなければならない。



 〔公判廷〕
第二百八十二条
 公判期日における取調は、公判廷でこれを行う。
 公判廷は、裁判官及び裁判所書記が列席し、且つ検察官が出席してこれを開く。



 〔法人の代理人〕
第二百八十三条
 被告人が法人である場合には、代理人を出頭させることができる。



 〔被告人の出頭不要の事件〕
第二百八十四条
 五十万円(刑法、暴力行為等処罰に関する法律及び経済関係罰則の整備に関する法律の罪以外の罪については、当分の間、五万円)以下の罰金又は科料に当たる事件については、被告人は、公判期日に出頭することを要しない。ただし、被告人は、代理人を出頭させることができる。



 〔被告人の不出頭を許す場合〕
第二百八十五条
 拘留にあたる事件の被告人は、判決の宣告をする場合には、公判期日に出頭しなければならない。その他の場合には、裁判所は、被告人の出頭がその権利の保護のため重要でないと認めるときは、被告人に対し公判期日に出頭しないことを許すことができる。
 長期三年以下の懲役若しくは禁錮又は五十万円(刑法、暴力行為等処罰に関する法律及び経済関係罰則の整備に関する法律の罪以外の罪については、当分の間、五万円)を超える罰金に当たる事件の被告人は、第二百九十一条の手続をする場合及び判決の宣告をする場合には、公判期日に出頭しなければならない。その他の場合には、前項後段の例による。



 〔被告人出頭の原則〕
第二百八十六条
 前三条に規定する場合の外、被告人が公判期日に出頭しないときは、開廷することはできない。



 〔被告人出頭の例外〕
第二百八十六条の二
 被告人が出頭しなければ開廷することができない場合において、勾留されている被告人が、公判期日に召喚を受け、正当な理由がなく出頭を拒否し、監獄官吏による引致を著しく困難にしたときは、裁判所は、被告人が出頭しないでも、その期日の公判手続を行うことができる。



 〔被告人不拘束の原則〕
第二百八十七条
 公判廷においては、被告人の身体を拘束してはならない。但し、被告人が暴力を振い又は逃亡を企てた場合は、この限りでない。
 被告人の身体を拘束しない場合にも、これに看守者を附することができる。



 〔被告人の在廷義務・法廷警察権〕
第二百八十八条
 被告人は、裁判長の許可がなければ、退廷することができない。
 裁判長は、被告人を在廷させるため、又は法廷の秩序を維持するため相当な処分をすることができる。



 〔必要的弁護人制度〕
第二百八十九条
 死刑又は無期若しくは長期三年を超える懲役若しくは禁錮にあたる事件を審理する場合には、弁護人がなければ開廷することはできない。
 弁護人がなければ開廷することができない場合において、弁護人が出頭しないとき、又は弁護人がないときは、裁判長は、職権で弁護人を附しなければならない。



 〔職権による弁護人附置〕
第二百九十条
 第三十七条各号の場合に弁護人が出頭しないときは、裁判所は、職権で弁護人を附することができる。



 〔冒頭手続〕
第二百九十一条
 検察官は、まず、起訴状を朗読しなければならない。
 裁判長は、起訴状の朗読が終つた後、被告人に対し、終始沈黙し、又は個々の質問に対し陳述を拒むことができる旨その他裁判所の規則で定める被告人の権利を保護するため必要な事項を告げた上、被告人及び弁護人に対し、被告事件について陳述する機会を与えなければならない。



 〔簡易公判手続によつて審判する旨の決定〕
第二百九十一条の二
 被告人が、前条第二項の手続に際し、起訴状に記載された訴因について有罪である旨を陳述したときは、裁判所は、検察官、被告人及び弁護人の意見を聴き、有罪である旨の陳述のあつた訴因に限り、簡易公判手続によつて審判をする旨の決定をすることができる。但し、死刑又は無期若しくは短期一年以上の懲役若しくは禁錮にあたる事件については、この限りでない。



 〔決定の取消〕
第二百九十一条の三
 裁判所は、前条の決定があつた事件が簡易公判手続によることができないものであり、又はこれによることが相当でないものであると認めるときは、その決定を取り消さなければならない。



 〔証拠調の時期〕
第二百九十二条
 証拠調は、第二百九十一条の手続が終つた後、これを行う。



 〔被害者等による心情その他の意見の陳述〕
第二百九十二条の二
 裁判所は、被害者又はその法定代理人(被害者が死亡した場合においては、その配偶者、直系の親族又は兄弟姉妹。以下この条において「被害者等」という。)から、被害に関する心情その他の被告事件に関する意見の陳述の申出があるときは、公判期日において、その意見を陳述させるものとする。
 前項の規定による意見の陳述の申出は、あらかじめ、検察官にしなければならない。
 この場合において、検察官は、意見を付して、これを裁判所に通知するものとする。
 裁判長又は陪席の裁判官は、被害者等が意見を陳述した後、その趣旨を明確にするため、当該被害者等に質問することができる。
 訴訟関係人は、被害者等が意見を陳述した後、その趣旨を明確にするため、裁判長に告げて、当該被害者等に質問することができる。
 裁判長は、被害者等の意見の陳述又は訴訟関係人の被害者等に対する質問が既にした陳述若しくは質問と重複するとき、又は事件に関係のない事項にわたるときその他相当でないときは、これを制限することができる。
 第百五十七条の二、第百五十七条の三及び第百五十七条の四第一項の規定は、第一項の規定による意見の陳述について準用する。
 裁判所は、審理の状況その他の事情を考慮して、相当でないと認めるときは、意見の陳述に代え意見を記載した書面を提出させ、又は意見の陳述をさせないことができる。
 前項の規定により書面が提出された場合には、裁判長は、公判期日において、その旨を明らかにしなければならない。この場合において、裁判長は、相当と認めるときは、その書面を朗読し、又はその要旨を告げることができる。
 第一項の規定による陳述又は第七項の規定による書面は、犯罪事実の認定のための証拠とすることができない。



 〔意見の陳述〕
第二百九十三条
 証拠調が終つた後、検察官は、事実及び法律の適用について意見を陳述しなければならない。
 被告人及び弁護人は、意見を陳述することができる。



 〔訴訟指揮〕
第二百九十四条
 公判期日における訴訟の指揮は、裁判長がこれを行う。



 〔尋問・陳述の制限・証人等の保護〕
第二百九十五条
 裁判長は、訴訟関係人のする尋問又は陳述が既にした尋問若しくは陳述と重複するとき、又は事件に関係のない事項にわたるときその他相当でないときは、訴訟関係人の本質的な権利を害しない限り、これを制限することができる。訴訟関係人の被告人に対する供述を求める行為についても同様である。
 裁判長は、証人、鑑定人、通訳人又は翻訳人を尋問する場合において、証人、鑑定人、通訳人若しくは翻訳人若しくはこれらの親族の身体若しくは財産に害を加え又はこれらの者を畏怖させ若しくは困惑させる行為がなされるおそれがあり、これらの者の住居、勤務先その他その通常所在する場所が特定される事項が明らかにされたならば証人、鑑定人、通訳人又は翻訳人が十分な供述をすることができないと認めるときは、当該事項についての尋問を制限することができる。ただし、検察官のする尋問を制限することにより犯罪の証明に重大な支障を生ずるおそれがあるとき、又は被告人若しくは弁護人のする尋問を制限することにより被告人の防御に実質的な不利益を生ずるおそれがあるときは、この限りでない。



 〔証拠の趣旨証明〕
第二百九十六条
 証拠調のはじめに、検察官は、証拠により証明すべき事実を明らかにしなければならない。但し、証拠とすることができず、又は証拠としてその取調を請求する意思のない資料に基いて、裁判所に事件について偏見又は予断を生ぜしめる虞のある事項を述べることはできない。



 〔証拠調の手続〕
第二百九十七条
 裁判所は、検察官及び被告人又は弁護人の意見を聴き、証拠調の範囲、順序及び方法を定めることができる。
 前項の手続は、合議体の構成員にこれをさせることができる。
 裁判所は、適当と認めるときは、何時でも、検察官及び被告人又は弁護人の意見を聴き、第一項の規定により定めた証拠調の範囲、順序又は方法を変更することができる。



 〔証拠調の請求及び職権〕
第二百九十八条
 検察官、被告人又は弁護人は、証拠調を請求することができる。
 裁判所は、必要と認めるときは、職権で証拠調をすることができる。



 〔尋問・証拠調の請求・証拠調の決定についての措置〕
第二百九十九条
 検察官、被告人又は弁護人が証人、鑑定人、通訳人又は翻訳人の尋問を請求するについては、あらかじめ、相手方に対し、その氏名及び住居を知る機会を与えなければならない。証拠書類又は証拠物の取調を請求するについては、あらかじめ、相手方にこれを閲覧する機会を与えなければならない。但し、相手方に異議のないときは、この限りでない。
 裁判所が職権で証拠調の決定をするについては、検察官及び被告人又は弁護人の意見を聴かなければならない。



 〔証人等の保護〕
第二百九十九条の二
 検察官又は弁護人は、前条第一項の規定により証人、鑑定人、通訳人若しくは翻訳人の氏名及び住居を知る機会を与え又は証拠書類若しくは証拠物を閲覧する機会を与えるに当たり、証人、鑑定人、通訳人若しくは翻訳人若しくは証拠書類若しくは証拠物にその氏名が記載されている者若しくはこれらの親族の身体若しくは財産に害を加え又はこれらの者を畏怖させ若しくは困惑させる行為がなされるおそれがあると認めるときは、相手方に対し、その旨を告げ、これらの者の住居、勤務先その他その通常所在する場所が特定される事項が、犯罪の証明若しくは犯罪の捜査又は被告人の防御に関し必要がある場合を除き、関係者(被告人を含む。)に知られないようにすることその他これらの者の安全が脅かされることがないように配慮することを求めることができる。



 〔証拠調の請求をすべき書面〕
第三百条
 第三百二十一条第一項第二号後段の規定により証拠とすることができる書面については、検察官は、必ずその取調を請求しなければならない。



 〔自白の供述書類の取調の制限〕
第三百一条
 第三百二十二条及び第三百二十四条第一項の規定により証拠とすることができる被告人の供述が自白である場合には、犯罪事実に関する他の証拠が取り調べられた後でなければ、その取調を請求することはできない。



 〔捜査記録の一部の取調〕
第三百二条
 第三百二十一条乃至第三百二十三条又は第三百二十六条の規定により証拠とすることができる書面が捜査記録の一部であるときは、検察官は、できる限り他の部分と分離してその取調を請求しなければならない。



 〔公判準備の結果の証拠調〕
第三百三条
 公判準備においてした証人その他の者の尋問、検証、押収及び捜索の結果を記載した書面並びに押収した物については、裁判所は、公判期日において証拠書類又は証拠物としてこれを取り調べなければならない。



 〔尋問の順序〕
第三百四条
 証人、鑑定人、通訳人又は翻訳人は、裁判長又は陪席の裁判官が、まず、これを尋問する。
 検察官、被告人又は弁護人は、前項の尋問が終つた後、裁判長に告げて、その証人、鑑定人、通訳人又は翻訳人を尋問することができる。この場合において、その証人、鑑定人、通訳人又は翻訳人の取調が、検察官、被告人又は弁護人の請求にかかるものであるときは、請求をした者が、先に尋問する。
 裁判所は、適当と認めるときは、検察官及び被告人又は弁護人の意見を聴き、前二項の尋問の順序を変更することができる。



 〔被告人の退廷〕
第三百四条の二
 裁判所は、証人を尋問する場合において、証人が被告人の面前(第百五十七条の三第一項に規定する措置を採る場合及び第百五十七条の四第一項に規定する方法による場合を含む。)においては圧迫を受け充分な供述をすることができないと認めるときは、弁護人が出頭している場合に限り、検察官及び弁護人の意見を聴き、その証人の供述中被告人を退廷させることができる。この場合には、供述終了後被告人を入廷させ、これに証言の要旨を告知し、その証人を尋問する機会を与えなければならない。



 〔証拠書類の朗読〕
第三百五条
 検察官、被告人又は弁護人の請求により、証拠書類の取調をするについては、裁判長は、その取調を請求した者にこれを朗読させなければならない。但し、裁判長は、自らこれを朗読し、又は陪席の裁判官若しくは裁判所書記にこれを朗読させることができる。
 裁判所が職権で証拠書類の取調をするについては、裁判長は、自らその書類を朗読し、又は陪席の裁判官若しくは裁判所書記にこれを朗読させなければならない。
 第百五十七条の四第三項の規定により記録媒体がその一部とされた調書の取調べについては、前二項による朗読に代えて、当該記録媒体を再生するものとする。ただし、裁判長は、検察官及び被告人又は弁護人の意見を聴き、相当と認めるときは、当該記録媒体の再生に代えて、当該調書の取調べを請求した者、陪席の裁判官若しくは裁判所書記官に当該調書に記録された供述の内容を告げさせ、又は自らこれを告げることができる。
 裁判所は、前項の規定により第百五十七条の四第三項に規定する記録媒体を再生する場合において、必要と認めるときは、検察官及び被告人又は弁護人の意見を聴き、第百五十七条の三に規定する措置を採ることができる。



 〔証拠物の呈示〕
第三百六条
 検察官、被告人又は弁護人の請求により、証拠物の取調をするについては、裁判長は、請求をした者をしてこれを示させなければならない。但し、裁判長は、自らこれを示し、又は陪席の裁判官若しくは裁判所書記にこれを示させることができる。
 裁判所が職権で証拠物の取調をするについては、裁判長は、自らこれを訴訟関係人に示し、又は陪席の裁判官若しくは裁判所書記にこれを示させなければならない。



 〔証拠物たる書面の取扱〕
第三百七条
 証拠物中書面の意義が証拠となるものの取調をするについては、前条の規定による外、第三百五条の規定による。



 〔規定の不適用〕
第三百七条の二
 第二百九十一条の二の決定があつた事件については、第二百九十六条、第二百九十七条、第三百条乃至第三百二条及び第三百四条乃至前条の規定は、これを適用せず、証拠調は、公判期日において、適当と認める方法でこれを行うことができる。



 〔証拠の証明力を争う機会〕
第三百八条
 裁判所は、検察官及び被告人又は弁護人に対し、証拠の証明力を争うために
要とする適当な機会を与えなければならない。



 〔証拠調に関する異議申立〕
第三百九条
 検察官、被告人又は弁護人は、証拠調に関し異議を申し立てることができる。
 検察官、被告人又は弁護人は、前項に規定する場合の外、裁判長の処分に対して異議を申し立てることができる。
 裁判所は、前二項の申立について決定をしなければならない。



 〔証拠書類及び証拠物の提出〕
第三百十条
 証拠調を終つた証拠書類又は証拠物は、遅滞なくこれを裁判所に提出しなければならない。但し、裁判所の許可を得たときは、原本に代え、その謄本を提出することができる。



 〔被告人の黙秘権及び任意の供述〕
第三百十一条
 被告人は、終始沈黙し、又は個々の質問に対し、供述を拒むことができる。
 被告人が任意に供述をする場合には、裁判長は、何時でも必要とする事項につき被告人の供述を求めることができる。
 陪席の裁判官、検察官、弁護人、共同被告人又はその弁護人は、裁判長に告げて、前項の供述を求めることができる。



 〔起訴状の訴因又は罰条の追加・変更〕
第三百十二条
 裁判所は、検察官の請求があるときは、公訴事実の同一性を害しない限度において、起訴状に記載された訴因又は罰条の追加、撤回又は変更を許さなければならない。
 裁判所は、審理の経過に鑑み適当と認めるときは、訴因又は罰条を追加又は変更すべきことを命ずることができる。
 裁判所は、訴因又は罰条の追加、撤回又は変更があつたときは、速やかに追加、撤回又は変更された部分を被告人に通知しなければならない。
 裁判所は、訴因又は罰条の追加又は変更により被告人の防禦に実質的な不利益を生ずる虞があると認めるときは、被告人又は弁護人の請求により、決定で、被告人に充分な防禦の準備をさせるため必要な期間公判手続を停止しなければならない。



 〔弁論の分離・併合・再開〕
第三百十三条
 裁判所は、適当と認めるときは、検察官、被告人若しくは弁護人の請求により又は職権で、決定を以て、弁論を分離し若しくは併合し、又は終結した弁論を再開することができる。
 裁判所は、被告人の権利を保護するため必要があるときは、裁判所の規則の定めるところにより、決定を以て弁論を分離しなければならない。



 〔公判手続の停止〕
第三百十四条
 被告人が心神喪失の状態に在るときは、検察官及び弁護人の意見を聴き、決定で、その状態の続いている間公判手続を停止しなければならない。但し、無罪、免訴、刑の免除又は公訴棄却の裁判をすべきことが明らかな場合には、被告人の出頭を待たないで、直ちにその裁判をすることができる。
 被告人が病気のため出頭することができないときは、検察官及び弁護人の意見を聴き、決定で、出頭することができるまで公判手続を停止しなければならない。但し、第二百八十四条及び第二百八十五条の規定により代理人を出頭させた場合は、この限りでない。
 犯罪事実の存否の証明に欠くことのできない証人が病気のため公判期日に出頭することができないときは、公判期日外においてその取調をするのを適当と認める場合の外、決定で、出頭することができるまで公判手続を停止しなければならない。
 前三項の規定により公判手続を停止するには、医師の意見を聴かなければならない。



 〔公判手続の更新〕
第三百十五条
 開廷後裁判官がかわつたときは、公判手続を更新しなければならない。但し、判決の宣告をする場合は、この限りでない。



第三百十五条の二
 第二百九十一条の二の決定が取り消されたときは、公判手続を更新しなければならない。但し、検察官及び被告人又は弁護人に異議がないときは、この限りでない。



 〔訴訟手続の効力〕
第三百十六条
 地方裁判所又は家庭裁判所において一人の裁判官のした訴訟手続は、被告事件が合議体で審判すべきものであつた場合にも、その効力を失わない。





    第二節 証拠


 〔証拠裁判主義〕
第三百十七条
 事実の認定は、証拠による。



 〔自由心証主義〕
第三百十八条
 証拠の証明力は、裁判官の自由な判断に委ねる。



 〔自白の証拠能力〕
第三百十九条
 強制、拷問又は脅迫による自白、不当に長く抑留又は拘禁された後の自白その他任意にされたものでない疑のある自白は、これを証拠とすることができない。
 被告人は、公判廷における自白であると否とを問わず、その自白が自己に不利益な唯一の証拠である場合には、有罪とされない。
 前二項の自白には、起訴された犯罪について有罪であることを自認する場合を含む。



 〔人的証拠の直接主義〕
第三百二十条
 第三百二十一条乃至第三百二十八条に規定する場合を除いては、公判期日における供述に代えて書面を証拠とし、又は公判期日外における他の者の供述を内容とする供述を証拠とすることはできない。
 第二百九十一条の二の決定があつた事件の証拠については、前項の規定は、これを適用しない。但し、検察官、被告人又は弁護人が証拠とすることに異議を述べたものについては、この限りでない。



 〔被告人以外の者の供述書類〕
第三百二十一条
 被告人以外の者が作成した供述書又はその者の供述を録取した書面で供述者の署名若しくは押印のあるものは、次に掲げる場合に限り、これを証拠とすることができる。
 一 
裁判官の面前(第百五十七条の四第一項に規定する方法による場合を含む。)における供述を録取した書面については、その供述者が死亡、精神若しくは身体の故障、所在不明若しくは国外にいるため公判準備若しくは公判期日において供述することができないとき、又は供述者が公判準備若しくは公判期日において前の供述と異つた供述をしたとき。
 二 
検察官の面前における供述を録取した書面については、その供述者が死亡、精神若しくは身体の故障、所在不明若しくは国外にいるため公判準備若しくは公判期日において供述することができないとき、又は公判準備若しくは公判期日において前の供述と相反するか若しくは実質的に異つた供述をしたとき。但し、公判準備又は公判期日における供述よりも前の供述を信用すべき特別の情況の存するときに限る。
 三 
前二号に掲げる書面以外の書面については、供述者が死亡、精神若しくは身体の故障、所在不明又は国外にいるため公判準備又は公判期日において供述することができず、且つ、その供述が犯罪事実の存否の証明に欠くことができないものであるとき。但し、その供述が特に信用すべき情況の下にされたものであるときに限る。被告人以外の者の公判準備若しくは公判期日における供述を録取した書面又は裁判所若しくは裁判官の検証の結果を記載した書面は、前項の規定にかかわらず、これを証拠とすることができる。
 検察官、検察事務官又は司法警察職員の検証の結果を記載した書面は、その供述者が公判期日において証人として尋問を受け、その真正に作成されたものであることを供述したときは、第一項の規定にかかわらず、これを証拠とすることができる。
 鑑定の経過及び結果を記載した書面で鑑定人の作成したものについても、前項と同様である。



 〔ビデオリンク方式による証人尋問の記録〕
第三百二十一条の二
 被告事件の公判準備若しくは公判期日における手続以外の刑事手続又は他の事件の刑事手続において第百五十七条の四第一項に規定する方法によりされた証人の尋問及び供述並びにその状況を記録した記録媒体がその一部とされた調書は、前条第一項の規定にかかわらず、証拠とすることができる。この場合において、裁判所は、その調書を取り調べた後、訴訟関係人に対し、その供述者を証人として尋問する機会を与えなければならない。
 前項の規定により調書を取り調べる場合においては、第三百五条第三項ただし書の規定は、適用しない。
 第一項の規定により取り調べられた調書に記録された証人の供述は、第二百九十五条
 第一項前段並びに前条第一項第一号及び第二号の適用については、被告事件の公判期日においてされたものとみなす。



 〔被告人の供述書類〕
第三百二十二条
 被告人が作成した供述書又は被告人の供述を録取した書面で被告人の署名若しくは押印のあるものは、その供述が被告人に不利益な事実の承認を内容とするものであるとき、又は特に信用すべき情況の下にされたものであるときに限り、これを証拠とすることができる。但し、被告人に不利益な事実の承認を内容とする書面は、その承認が自白でない場合においても、第三百十九条の規定に準じ、任意にされたものでない疑があると認めるときは、これを証拠とすることができない。
 被告人の公判準備又は公判期日における供述を録取した書面は、その供述が任意にされたものであると認めるときに限り、これを証拠とすることができる。



 〔その他の書面〕
第三百二十三条
 前三条に掲げる書面以外の書面は、次に掲げるものに限り、これを証拠とすることができる。
 一 
戸籍謄本、公正証書謄本その他公務員(外国の公務員を含む。)がその職務上証明することができる事実についてその公務員の作成した書面
 二 
商業帳簿、航海日誌その他業務の通常の過程において作成された書面
 三 
前二号に掲げるものの外特に信用すべき情況の下に作成された書面



 〔伝聞供述書類〕
第三百二十四条
 被告人以外の者の公判準備又は公判期日における供述で被告人の供述をその内容とするものについては、第三百二十二条の規定を準用する。
 被告人以外の者の公判準備又は公判期日における供述で被告人以外の者の供述をその内容とするものについては、第三百二十一条第一項第三号の規定を準用する。



 〔任意の供述であることの調査〕
第三百二十五条
 裁判所は、第三百二十一条から前条までの規定により証拠とすることができる書面又は供述であつても、あらかじめ、その書面に記載された供述又は公判準備若しくは公判期日における供述の内容となつた他の者の供述が任意にされたものかどうかを調査した後でなければ、これを証拠とすることができない。



 〔当事者の同意による書面又は供述の証拠能力〕
第三百二十六条
 検察官及び被告人が証拠とすることに同意した書面又は供述は、その書面が作成され又は供述のされたときの情況を考慮し相当と認めるときに限り、第三百二十一条乃至前条の規定にかかわらず、これを証拠とすることができる。
 被告人が出頭しないでも証拠調を行うことができる場合において、被告人が出頭しないときは、前項の同意があつたものとみなす。但し、代理人又は弁護人が出頭したとは、この限りでない。



 〔当事者の合意による供述書類〕
第三百二十七条
 裁判所は、検察官及び被告人又は弁護人が合意の上、文書の内容又は公判期日に出頭すれば供述することが予想されるその供述の内容を書面に記載して提出したときは、その文書又は供述すべき者を取り調べないでも、その書面を証拠とすることができる。この場合においても、その書面の証明力を争うことを妨げない。



 〔供述の証明力についての証拠〕
第三百二十八条
 第三百二十一条乃至第三百二十四条の規定により証拠とすることができない書面又は供述であつても、公判準備又は公判期日における被告人、証人その他の者の供述の証明力を争うためには、これを証拠とすることができる。





    第三節 公判の裁判


 〔管轄違の判決〕
第三百二十九条
 被告事件が裁判所の管轄に属しないときは、判決で管轄違の言渡をしなければならない。但し、第二百六十六条第二号の規定により地方裁判所の審判に付された事件については、管轄違の言渡をすることはできない。



 〔管轄下級裁判所への移送の決定〕
第三百三十条
 高等裁判所は、その特別権限に属する事件として公訴の提起があつた場合において、その事件が下級の裁判所の管轄に属するものと認めるときは、前条の規定にかかわらず、決定で管轄裁判所にこれを移送しなければならない。



 〔土地管轄についての管轄違の言渡の制限〕
第三百三十一条
 裁判所は、被告人の申立がなければ、土地管轄について、管轄違の言渡をすることができない。
 管轄違の申立は、被告事件につき証拠調を開始した後は、これをすることができない。



 〔管轄地方裁判所への移送の決定〕
第三百三十二条
 簡易裁判所は、地方裁判所において審判するのを相当と認めるときは、決定で管轄地方裁判所にこれを移送しなければならない。



 〔刑の言渡しの判決〕
第三百三十三条
 被告事件について犯罪の証明があつたときは、第三百三十四条の場合を除いては、判決で刑の言渡をしなければならない。
 刑の執行猶予は、刑の言渡しと同時に、判決でその言渡しをしなければならない。刑法第二十五条の二第一項の規定により保護観察に付する場合も、同様である。



 〔刑の免除の判決〕
第三百三十四条
 被告事件について刑を免除するときは、判決でその旨の言渡をしなければならない。



 〔有罪の言渡の内容〕
第三百三十五条
 有罪の言渡をするには、罪となるべき事実、証拠の標目及び法令の適用を示さなければならない。
 法律上犯罪の成立を妨げる理由又は刑の加重減免の理由となる事実が主張されたときは、これに対する判断を示さなければならない。



 〔無罪の判決〕
第三百三十六条
 被告事件が罪とならないとき、又は被告事件について犯罪の証明がないときは、判決で無罪の言渡をしなければならない。



 〔免訴の判決〕
第三百三十七条
 左の場合には、判決で免訴の言渡をしなければならない。
 一 
確定判決を経たとき。
 二 
犯罪後の法令により刑が廃止されたとき。
 三 
大赦があつたとき。
 四 
時効が完成したとき。



 〔公訴棄却の判決〕
第三百三十八条
 左の場合には、判決で公訴を棄却しなければならない。
 一 
被告人に対して裁判権を有しないとき。
 二 
第三百四十条の規定に違反して公訴が提起されたとき。
 三 
公訴の提起があつた事件について、更に同一裁判所に公訴が提起されたとき。
 四 
公訴提起の手続がその規定に違反したため無効であるとき。



 〔公訴棄却の決定〕
第三百三十九条
 左の場合には、決定で公訴を棄却しなければならない。
 一 
第二百七十一条第二項の規定により公訴の提起がその効力を失つたとき。
 二 
起訴状に記載された事実が真実であつても、何らの罪となるべき事実を包含していないとき。
 三 
公訴が取り消されたとき。
 四 
被告人が死亡し、又は被告人たる法人が存続しなくなつたとき。
 五 
第十条又は第十一条の規定により審判してはならないとき。
 前項の決定に対しては、即時抗告をすることができる。



 〔再起訴の条件〕
第三百四十条
 公訴の取消による公訴棄却の決定が確定したときは、公訴の取消後犯罪事実につきあらたに重要な証拠を発見した場合に限り、同一事件について更に公訴を提起することができる。



 〔被告人の陳述を聴かないでする判決〕
第三百四十一条
 被告人が陳述をせず、許可を受けないで退廷し、又は秩序維持のため裁判長から退廷を命ぜられたときは、その陳述を聴かないで判決をすることができる。



 〔判決の宣告〕
第三百四十二条
 判決は、公判廷において、宣告によりこれを告知する。



 〔禁錮以上の刑の宣告と保釈等の効力〕
第三百四十三条
 禁錮以上の刑に処する判決の宣告があつたときは、保釈又は勾留の執行停止は、その効力を失う。この場合には、あらたに保釈又は勾留の執行停止の決定がないときに限り、第九十八条の規定を準用する。



 〔当然保釈の制限〕
第三百四十四条
 禁錮以上の刑に処する判決の宣告があつた後は、第六十条第二項但書及び第八十九条の規定は、これを適用しない。



 〔無罪の判決等の宣告と勾留状の効力〕
第三百四十五条
 無罪、免訴、刑の免除、刑の執行猶予、公訴棄却(第三百三十八条第四号による場合を除く。)、罰金又は科料の裁判の告知があつたときは、勾留状は、その効力を失う。



 〔押収物の処置〕
第三百四十六条
 押収した物について、没収の言渡がないときは、押収を解く言渡があつたものとする。



 〔押収物還付の言渡〕
第三百四十七条
 押収した贓物で被害者に還付すべき理由が明らかなものは、これを被害者に還付する言渡をしなければならない。
 贓物の対価として得た物について、被害者から交付の請求があつたときは、前項の例による。
 仮に還付した物について、別段の言渡がないときは、還付の言渡があつたものとする。
 前三項の規定は、民事訴訟の手続に従い、利害関係人がその権利を主張することを妨げない。



 〔罰金等の仮納付の判決〕
第三百四十八条
 裁判所は、罰金、科料又は追徴を言い渡す場合において、判決の確定を待つてはその執行をすることができず、又はその執行をするのに著しい困難を生ずる虞があると認めるときは、検察官の請求により又は職権で、被告人に対し、仮に罰金、科料又は追徴に相当する金額を納付すべきことを命ずることができる。
 仮納付の裁判は、刑の言渡と同時に、判決でその言渡をしなければならない。
 仮納付の裁判は、直ちにこれを執行することができる。



 〔執行猶予の言渡しの取消〕
第三百四十九条
 刑の執行猶予の言渡を取り消すべき場合には、検察官は、刑の言渡を受けた者の現在地又は最後の住所地を管轄する地方裁判所、家庭裁判所又は簡易裁判所に対しその請求をしなければならない。
 刑法第二十六条の二第二号の規定により刑の執行猶予の言渡しを取り消すべき場合には、前項の請求は、保護観察所の長の申出に基づいてこれをしなければならない。



 〔執行猶予の言渡しの取消の請求があつた場合の決定〕
第三百四十九条の二
 前条の請求があつたときは、裁判所は、猶予の言渡を受けた者又はその代理人の意見を聴いて決定をしなければならない。
 前項の場合において、その請求が刑法第二十六条の二第二号の規定による猶予の言渡しの取消しを求めるものであつて、猶予の言渡しを受けた者の請求があるときは、口頭弁論を経なければならない。
 第一項の決定をするについて口頭弁論を経る場合には、猶予の言渡を受けた者は、弁護人を選任することができる。
 第一項の決定をするについて口頭弁論を経る場合には、検察官は、裁判所の許可を得て、保護観察官に意見を述べさせることができる。
 第一項の決定に対しては、即時抗告をすることができる。



 〔一部大赦による刑の変更手続〕
第三百五十条
 刑法第五十二条の規定により刑を定むべき場合には、検察官は、その犯罪
 事実について最終の判決をした裁判所にその請求をしなければならない。この場合には、前条第一項及び第五項の規定を準用する。


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